BL−boys love

□お前にだけは素直で
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練習後の静まった校内を高尾と進んでいく

体育館の鍵を返しに行くためだ


「さーさーのはーさーらさらー」
「高尾、七夕はもう終わったのだよ」
「そうだけどさ、なんとなく離れなくてつい」


はにかみながら歌うお前は、見ていてこっちも微笑んでしまいそうなほどに楽しそうだ

俺の横で歌われるのは迷惑なはずが、高尾だとそう感じないのが不思議でしょうがない


「あ、そうだ!真ちゃんは七夕のとき何お願いした?」
「特に何も願ってはいない」
「えっ?!それマジ?」
「何かおかしいか?」
「あーいやー、占い信者の真ちゃんだからてっきりそういうのにも頼るのかと思って」
「占いと七夕のお願いは別だろう」
「そんなもんなのかねー」


頭の上に手を置いて、うーんと唸りながら先のほうをじっと見つめる

高尾の仕草は見ていて面白い

そのうちに何かひらめいたようにパッと見上げてきた


「じゃあふたりで七夕やろうよ!」
「は?!」
「短冊の余りとかありそうだし、今すぐできそうじゃん?」
「そういう問題か?七夕という日はもう過ぎたのだよ!」


ぴしゃりと言い放つと高尾は悔しそうな表情を浮かべた

そんな表情をされたら俺が悪いみたいだ

少しフォローを入れようと言葉を探しているうちに、めげずにまた口を開く


「過ぎててもさー、形が大事だと思うんだけど…真ちゃんそういうのイヤ?」
「イヤって……別にそこまで否定したわけではないのだよ」
「え?じゃ、やっていいの?」
「やるなとは初めから言ってないし、高尾の誘いは断らない」
「真ちゃん……マジ好き!」
「バッ…やるなら早くやるのだよ!」
「りょうかーい!真ちゃんはそこで待っててー!」


本来の目的を忘れていないか心配になるものの、バタバタと廊下を走ってあっという間に視界から消えてしまったから何も伝えられない

仕方なくその場に立ち止まってみた

普段は生徒の声で騒がしい廊下も今は静かで薄暗く、じっとりとして薄気味悪い

通り過ぎる分には気にならなかったが、立ち止まってみるとそう感じざるを得なかった

ただ黙って高尾が戻ってくるのを待つのはつまらないから、どこに行ったかはわからないが追いかけてみることにした

すると、廊下の先に何かが落ちているのがわかった

近付くとそれは黒色のサインペンだった

高尾が落とした物かもしれない、と思いとりあえず拾ってみる

再び歩き出すとまた何か落ちているように見えた

今度は緑色のマーカーだ

もしかしたら、という考えの通りその先に高尾がいた

短冊を片手に立ち止まり、何やら見上げているようだ


「高尾」
「うえっ?!し、真ちゃん!脅かさないでよー」
「すまない。何をしているのかと思って」
「このクラス、まだ笹を片付けてないんだなーと思って覗いてたんだけど…そこにお邪魔するわけにもいかないっしょ?」
「そうだな」


当たり前だ、という気持ちを込めて頷くとニコリと笑って腕を掴んできた

そのままどこかに向かって歩き出す

静かな廊下に二人分の足音が響くから、俺たちしかいない世界に迷い込んだようだ

そして到着したのは教室だった


「ずっと持ってたんだけどさ、ふたりで七夕やるときまで渡さないって決めてたんだよね」
「これは?」
「開けてみて?」


バッグからなにやら取り出したかと思うと、俺に差し出してきた

手のひらに乗るほどの小さな包みを開けると緑色のリストバンドが入っていた


「どう?気に入った?真ちゃんにぴったりだと思って選んでみたんだけど」
「あぁ、鮮やかな緑色なのだよ」
「……誕生日おめでと、真ちゃん!遅くなってゴメンね」
「ありがとう」


誕生日プレゼントだったのかと感心している俺をニコニコと見つめ、ほらっと腕を突き出してきた高尾にもリストバンドがあった

高尾らしい明るいオレンジ色だ


「見て見て!」
「高尾、もし二人で七夕が出来なかったらこれはどうするつもりだったのだよ?」
「んー?それは考えてなかったってか、絶対やるって決めてた!」
「バカだなお前は……」


まるで今のが褒め言葉だったかのように笑みを向けてくる

そのまま楽しそうに机に短冊を乗せて並べる

すぐにあれっ?というように表情を曇らせた


「どうした?」
「いやーペンが見当たらなくてさー」


ペン、というと先程廊下で拾ったものだろうか

黒色のサインペンをポケットから取り出して高尾に差し出す


「これか?」
「そうっ!って?!なんで真ちゃんが持ってんの?」
「さっき廊下で拾ったのだよ」
「そっか!サンキュー!」


俺の手からサインペンを取り、短冊に書き込み始めた

それを眺めていると、パッと手で囲いを作られた

めずらしく見られたくないようだ


「見ちゃダーメ!真ちゃんが書き終わるまで見せない!」
「なら、さっさと書くのだよ」
「もう書き終わるから!書くこと決まってたんだから…」


その時自分も願い事を書かなくてはならないことに気付いた

高尾はどんな願い事を書いたのだろうか?

高尾自身のこと、バスケのこと、それとも俺のこと……

さすがに自惚れすぎたかとため息を吐くと、書き終わった高尾が顔を上げた


「はい!次真ちゃんね」
「あぁ……」
「なに書くの?」


期待に満ちた瞳に見つめられると、決めていないとは答えられない

受け取ったサインペンに視線を落としても見つめ続けられているのがわかる

高尾の気持ちはいつでも真っ直ぐに向けられている

ならば自分もこういうときこそ素直に表すべきではないのだろうか

そう考えるとペンがさらさらと動いた

高尾に隠すこともせず、素直に書き綴っていく


「……っ…真ちゃん」
「どうした?」
「どうしよう…オレ、すっごくうれしい」


書き終わる前に高尾が言葉を零す

素直に書いたと言っても普段の高尾の言葉に比べれば控えめだ

だがそれを嬉しいと言ってくれたことが俺にとっては嬉しかった

書き終わり顔を上げると、目の前に高尾が書いた短冊を突きつけられていた

それを見て驚いたのも無理はない


「オレ、やっぱずっと真ちゃんとバスケしてたいって思うんだよね」
「俺の願いもそうだ。これからも高尾とバスケがしたいのだよ」


短冊に記されていた願い事がまったく同じだったのだから


【これからも高尾とバスケができますように】

【これからもずっと真ちゃんとバスケができますように】


長年一緒にいたわけでもなく、高校に入学して3か月程しか時間を共にしていないのにここまで同調できることに驚いた

だが、それと同時に愛しさも感じていた

あれだけ毎日ベタベタとくっついて離れない高尾の願いが思っていたよりも可愛らしいものだったからだろう


「高尾」
「ん?なに?…って?!どしたの急に…」


どうしたもこうしたもない

ただ高尾をこの腕の中に閉じ込めたかった

その体温を感じたかった


「えっと…真ちゃん?」
「少しくらいおとなしくしていろ」
「う、うん…」


腕の中に収まっている高尾が普段にはない程おとなしくしているから尚更愛しく思えてしまう

わざわざ俺の誕生日を祝うためにプレゼントを用意し、遅れながらも七夕をしようと密かに計画していたとは思いもしなかった

このお礼をどうすれば良いか、少しだけ考えを巡らせたが答えは出ない

とりあえず今出来ることをしよう、そう思うと身体が勝手に動いていた


「わっ…?!し、真ちゃん近いよ!」
「今日はありがとうな、高尾」
「えっ?ど、どういたしま…っん……」


高尾の言葉が終わるのも待ちきれず、唇を重ねた

ここがいつも授業をしている教室だということも忘れて感触を味わっていた

薄く開いた目に見えたのは真っ赤な顔でギュッと目を閉じて俺を受け入れている姿だった

精一杯の理性で唇を離し、頭をそっと撫でてやる


「真ちゃんてば…いきなりすぎ」
「悪いか?これでも我慢した方なのだよ」
「悪くないけど…!」
「ならばいいだろう」


今の自分がどれだけ満足げな表情をしているかがよくわかった

高尾の潤んだ瞳に映っていたからだ

このままだと抑えが効かなくなりそうで、高尾の書いた短冊を手に取った


「これは俺が持っている。代わりに俺のを高尾が持っていてほしいのだよ」
「いいねそれ!それじゃ真ちゃんのもらうね」
「…これで互いの願い事が叶う時は同じだ」
「なんか一心同体みたいで照れちゃうなー」


冗談を言う高尾を尻目にバッグを掛けて歩き始める

後ろから追いかけてくる高尾がまたかわいい

追い付くまでスピードを落として歩いてやる

今日は少しだけ優しくしてやりたかった

追い付くなりすぐに見上げて話し出す


「でもさー、あの願い事って叶ったっていうタイミングわかんなくない?」
「なぜだ?」
「だって一緒にバスケしてたら、ずーっとこれからもって考えるからいつまでも叶った感じしないんじゃね?」
「…なら常に叶っているということで、知らぬ間に幸せになっていることになるのだよ」


願いでありながら、既に叶っているということを込めて真っ直ぐに言い放つ

それを聞いて高尾が目を見開いた

本当に高尾は察しがいい

泣きそうな表情のまま明るい笑顔を浮かべて腕に飛びついてきた

今日なら言ってやらなくもない


「高尾」
「うん?」
「愛してるのだよ」
「へ?!今…なんて…」
「もう言わん」
「録音したかった!うわー!夢みたいだよ真ちゃん!」


たくさんの言葉を並べながら喜びを表現している高尾の手を取って廊下を進んでいく

こんなにも簡単に夢を見せてやれるならたまには素直に思ったことを言おう

それも悪くない

繋いだ手に力をこめた


「さあ、帰るのだよ」
「帰りたくないなー!もっと真ちゃんといたい!」
「声が大きいのだよ!」
「オレも愛してるから少しでも長く一緒にいたいのー」
「…まったく、しょうがない奴だ」
「えっ?なになに?帰らない?」
「……」


やはり前言撤回だ

お調子者の高尾に悪くないなんて思えるわけがない

どうせこうなることは見えていた

だがそう思えてしまうくらいには気を許していると言うことで

それはつまり


「帰らないならそれ相応の覚悟があると受け取るが、間違ってないな?」
「…ちょ、顔がマジだよ真ちゃん」
「そういうことなのだよ」
「…期待するよ?」
「構わん」
「じゃあ…お願いします」


これでも十分素直だということだ

こんな時だけかしこまるお前もまた愛おしい

どんなお前でも好きだと思えることに自分でも驚きながら、手を握りなおした

この手が離れぬように──



(そういえばこの緑のマーカーも高尾のか?)
(え?違うけど?)
(さっきサインペンと一緒に拾ったのだよ)
(落ちてたの?オレ見てない…んだけど、それ…)
(なら、これは誰の…)
(真ちゃんやめてよ!怖いっそれ!!)





−*−*−*−*−*−

夏なのでラストはホラー風にしてみました(^o^)

緑高初挑戦でした…途中まで迷路の中でさまよってた感じで(;´Д`)

高緑のほうが得意な気がしました

それでも後半がんばったのですが…緑高に見えていればうれしいです!

手探り緑高にお付き合いいただき、ありがとうございました(●´ω`●)




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