BL−boys love

□鷲と眼鏡の真夏の恋事情
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暑くて、暑くて…

もう気が遠くなりそうで

それも無理はない

体育館の中でひたすら練習に励んでいるのだから


「はーい!じゃあ5分休憩!」
「きっつー!やっぱり合宿前だからかな?」
「だろうな…ま、合宿の方がキツいんだけど」
「だよなー」


そんな厳しい練習でも合間に日向と話す瞬間だけは疲れを忘れられる

だから夏休みになってからの練習はそれが心の支えになっていた


「なあ伊月」
「ん?」
「合宿の部屋割りどうなると思う?」
「カントクはくじって言ってたけど」
「やっぱりか…」


今回の合宿先では大部屋がなく、2年は2部屋に分かれることになっていた

カントクは公平にするためにくじ引きで決めると宣言していたはずだ

突然日向がそんなことを聞いてくるから不思議に思って見つめてしまった


「……同じ部屋だといいよな」
「そ、そうだな」
「そろそろ練習再開するわよ!」
「さ、もうひと頑張りだ!気を引き締めていくぞ!」


日向の声に押されて練習は再開された

そしてその日の練習後、部屋割りのくじ引き大会が行われた

と言ってもほんの数分の出来事だった

決まるのは一瞬で、くじの紙を一斉に開く瞬間は緊張が走る

なんとなく嫌な予感がして息を飲んだ


「ハートの人と星の人に分かれて!」
「なんでマークなんだよ…俺星だから星の人こっちな」


開いた紙にもう一度視線を落としてもマークは変わるはずもなく、ハートだった

嫌な予感は的中するものだ

そのままぼんやりとしていると、トンッと肩をたたかれた

日向かと思って顔をあげたら土田だったことがわかり、そのそばに水戸部も立っていた


「日向と同じ部屋かー。楽しくなりそうだな」
「楽しくねーよ!」
「日向!木吉!オレトランプ持ってくからやろ!」
「コガ!そんな時間ねーから!」


わいわいしている日向たちが遠く感じる

心がぐちゃぐちゃになっていく

周りの音が遠ざかっていく

まるで、世界から切り離されてひとりぼっちになってしまうようだった





「もっと集中!声出して!」


カントクの声が響き渡る

普段よりキツいメニューをこなしているから汗が止まることはない

合宿とはいえ、やることはもちろんバスケだし、メンバーも同じだから場所が変わっても違和感がない

いや、それはウソだ

バスケをしている間はいいけど、夜は部屋に行かないといけない

それには違和感を感じる


「おい、伊月大丈夫か?」
「……っ…はあ…だ、大丈夫…」
「そんなに息切れして…具合悪いんじゃ」
「大丈夫…だってば…」
「無理はすんなよ」


練習中だというのに頭をくしゃっとなでられた

日向のやさしさは合宿が始まってから顕著になっていた

部屋が違うことの罪滅ぼしみたいに

くじ引きのあと、部屋が違うことに関して触れられないように話題をそらし続けた

結局部屋について話すことはなく、初日の昨日は寝るまで日向の部屋に全員集合で過ごした

でも寝るのは自分の部屋だったから真っ暗な部屋の天井をぼんやり見つめていた

結構長い時間そうしていたから疲れが残っているのかもしれない

今日は身体がついてこなくて、息はあがるし、無駄に汗をかいてる気もする

これだけ身体を酷使しておけばすぐに寝られるはず、と言い聞かせて残りの練習メニューをこなした



「水戸部ー!こっちの部屋でトランプしない?」
「……(首振り)」
「コガは元気だな」
「伊月もする?」
「いや、オレは遠慮するよ」


部屋に入る前、小金井の誘いを断ってしまった

それは反射的というか、小金井に誘われてというのが嫌だったからだ

日向に誘われたなら遠慮なく行くのに、当の日向は誘ってくれないから心の中でちょっと怒った

部屋に入ると自然と寝る空気になった

メンバーを考えれば当然で、支度を終えると布団に転がった

昨夜と同じように天井を見つめていると周りから寝息が聞こえ始めた

あれだけの練習をしていれば静かで暗い部屋は寝るのに最適すぎる場所だ

なのにまったく眠くならない

ご飯の時のほうがよっぽど寝そうになっていた

この寝ろと言わんばかりの空間が逆に眠気を削いでしまっている

ふたりは寝てしまったようだし、音を立てないようにして部屋を出て散歩することにしてドアを静かに開ける

すると隣の部屋のドアからガタンと大きな音がした

驚いてとっさに振り返ると、荒々しく開いたドアから日向が現れた


「ひゅ、日向…っ?!」
「あ?伊月?!」


思いもしない鉢合わせに心臓が飛び上がった

日向のほうから駆け寄ってきて、ぽんと肩に手を置かれた

そして心配そうに顔をのぞき込まれる


「顔色悪いぞ?やっぱり具合悪いのか?」
「そんなことない」
「でも、ぼーっとしてて様子も変だし」
「日向はなんともないわけ?」
「は?」
「合宿とはいえ普段より長く一緒にいられるのに部屋違うし……っ!」


しまったと思った時にはもう遅かった

肩に置かれた手にぐっと引き寄せられて、日向の腕の中に閉じ込められた

ぐしゃぐしゃにして隠したつもりの感情がついこぼれてしまった

これ以上なにも言わないように唇を噛む


「…やっぱり気にしてたんだな。安心した」
「なにが?」
「部屋が違うことだよ。お前何も言わねーから俺と違ってもいいのかと思ってた」
「そんなわけ…」
「ねーよな」


ぎゅっと腕に力がこもり、身体が密着する

ちょうど耳元に日向の口元がくるから、わざと吐き出された息がかかってびくりと身体が跳ねた

合宿所の廊下だというのに反応してしまったことに一気に顔が熱くなる

それに気付いた日向が耳に声を直に響かせてきた


「外、行くか」
「うん」


チュッと耳にキスされ、身体まで熱くなっていく

腕を引かれて外に出ると、昼間より涼しくなった潮風が火照った身体をなでた

砂浜にどっかりと座った日向は、足の間に座るように急かしてきた

横に座ろうと思ってたけど、そうされてはそこに座らなければならない

というか、座りたい

控えめに日向に背を向けて座る


「そんな離れて座るなよ」
「だって…」
「嫌か?」
「違う…」


夜風にあたっても冷めることのない熱に追い打ちをかけるように、後ろから抱き締められてしまった

ただこの熱が、この鼓動が伝わらないでほしかっただけなのに


「伊月熱い」
「なら離れればいいだろ?」
「いや、このほうが落ち着く」
「オレは落ち着かない!」


大きな声を出すと、日向が腕の力を緩め、火照った頬に手を添えてきた

その手もまた熱くて、体温が溶け合うような気がする

それがなんだか気持ちよく感じられた


「……寝不足なんだろ?寄りかかれよ」
「命令しないでよ」
「こうでも言わねーとしないだろうが……ほら」


肩を抱き寄せるようにして引かれ、自然と寄りかかる体勢になった

トンッと触れた日向の身体に急に安心感を抱き、力を抜いて寄りかかった

体重がかかったことに満足したのか、オレの手に手を重ねてきた


「眠くなったら寝ていいからな」
「日向が寝そうなんじゃないの?」
「そんなことねーよ。伊月が寝るまで付き合うつもりだから」
「バカじゃない?明日も練習なのに」
「寝れない伊月ほっとく方がバカだと思ってこうしてる俺もバカか?」
「……バカだよ」


日向が小さく笑った

オレも日向から顔が見えないことをいいことに、こっそり笑った

その時突然日向が空を指差した


「見ろよ!星がたくさんだ」
「ホントだ!って、なんか日向らしくない」
「うるせーよ」
「あははっ!…でも、きれい」


言われるまで気付かなかったのは、下を見てばかりいたからだ

釘付けになったように空を見つめた 

小さな光の粒たちがそれぞれ輝いている

家からは見えないその光たちは違う場所では輝いていて

いくら小さくても、万人に見られなくても、自分の居場所で精一杯に輝くその姿に心が動かされていた

日向に見つけてもらえたらそれでいい

そのために輝きたい


「ありがと、日向」
「はあ?いきなりどうしたんだよ」
「オレ、日向のおかげで頑張れてるから」
「ばっ!突然そういうこと言うなって」
「言うよ?だって……」


背中から伝わる日向の体温が心地よい

静かに目を閉じると目に焼き付いた星空が見えた

今なら熱も鼓動の速さも全部伝わればいい


「だって、日向が好きだから」
「…っ!……伊月、こっち向け」


その言葉が何を意味するかは明らかで、振り向く途中で唇が塞がれた

塞がれたという表現はすぐに間違いになった

チュッ、チュッと音を立てて触れるだけのキスをゆっくりと繰り返す

くすぐったくて、気持ち良くて、そのまま寝てしまいそうになる


「伊月」
「…ん?」
「寝れそうか?」
「…うん」
「あとは俺に任せろ。…おやすみ」


ぼんやりした頭にやさしく響く日向の声

ポンポンと頭を撫でられると夢の世界へと落ちていった





「ん…」
「……」
「…えっ?!」


部屋の明るさに目が覚めた

昨日はどうしたんだっけ、と思いながら目を開けると、目の前に日向が寝ていた

驚いてあげた声で起こしてしまったようで、眉間にシワを寄せながら目を開いた


「おはよう、伊月。よく寝れたか?」
「あ、うん…」
「ならよかった」
「…あのさ、なんで日向と寝てるの、オレ」


部屋にはオレと日向しかいない

疑問をぶつけると、日向はオレを引き寄せた

間近に迫った顔に視線をさまよわせる


「伊月が熱出したってウソ言って俺のほうの部屋あけてもらったんだ。4人は伊月のほうの部屋で寝てる」
「そんなことまでしなくても…」
「そんなことまでしてもお前といたかったんだよ」
「日向…」


日向は髪を梳くように撫で、そのまま口付けてきた

昨日のと違って、角度を変えて、何度も何度もする深いキスだった

そのうち、日向の手は頭から首、首から背中へと移動していく

腰を撫でられ、身体が震えた


「……っ…だめ…あさ、だよ…」
「ちょっとくらい、いいだろ…っ」
「…よくな…っん…」


隣の部屋にみんながいるというのにこんなことをしているのが恥ずかしくて、どんどん顔が熱くなっていく

どうにかして日向を止めなきゃと考えていると、部屋に無機質な音が響き渡った

─ピピピピピピ


「チッ…目覚ましかけなきゃよかった」
「ダメだよ!練習遅れちゃう」
「病人の看病してたら遅れたってことで」
「ダメ!」
「…ごめんなさい」


この熱はどうにかして抑えるとして、とりあえず日向を“彼氏”から“キャプテン”に戻さなければならない

本当は日向と過ごしたいけど、仮病では嬉しくない

日向の手を握って、まっすぐ見据える


「今日も練習頑張らなきゃ。ね?キャプテン」
「そうだな」
「うん」


起きて支度を済ませ、部屋を出る

するとすぐにチームメイトと鉢合わせた


「伊月もう大丈夫なのか?」
「うん。一晩ぐっすり寝たら治ったよ」
「昨日具合悪そうだったもんなー」
「心配かけてごめんね」


覚悟はしていたこのやり取りを終え、日向を睨んだ

すまなそうな表情を浮かべたけど、ああして日向と眠れたのはそのおかげだから怒るつもりもない

すぐに笑顔を見せて耳元でささやいた


「ありがと」
「伊月…!…ったく」


恥ずかしそうに頬を赤らめた日向は、オレの肩を掴んだと思った瞬間、頬にキスを落とした

おかげでまた顔が熱くなってしまう

日向の胸をひと殴りしてみんなを追い掛けた


「おい、待てよ!」
「日向のバーカ!」
「なっ?!伊月!!」



熱い、熱い

気が遠くなるような熱さの季節は

まだまだ続く



(あれ?やっぱ伊月顔赤くね?)
(そ、そんなことないよ?)
(日向も赤いぞ。伊月のが移ったか?)
(移ってねーよ!)
(仲良しだな、日向と伊月)
(……(コクリ))





−*−*−*−*−*−

伊月目線でチャレンジしたら日向がヘタレなかった(^o^)

むしろ日向くんの暴走でしたw

なぜか日月を書くと誠凛2年が出てきてしまいます、今回はフル出場という

たのしく書けたので満足です!w

日月は日向目線と伊月目線どっちがいいんだろう…

またチャレンジしたいと思います!
このふたりまじ夫婦(^o^)まじ萌え(^o^)←




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