BL−boys love

□負けるということは
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試合に負けた悔しさは

チームメイトみんなが味わう

でも悔しさには違いがあるもので

責任が重い立場であるほど想いは強く

悔しさも比例して強くなっていくというのに

立場ゆえに泣けないこともあるわけで

みんなを励まし努力を讃える

それがキャプテン

それが使命



「ありがとうございました!!」

負けても感謝は忘れない

全力を尽くして戦った相手に、応援してくれた人たちに

そしてチームメイトに

すでに泣いてるチームメイトの肩を抱き、感謝を伝える

次の試合に響かないようすばやくロッカールームに引き上げるよう指示する

本当は名残惜しい

もっと試合をしていたかった

だが、負けるとはそういうこと

強い者が勝ち、強い者に戦う資格が与えられるのだ


「みんな、お疲れさん」

ありきたりな言葉を並べて今日の試合を評価していく

正直今の自分には余裕がなくてありきたりなことしか言えなかった

試合を振り返ればまた悔しさがこみ上げて泣いてしまいそうだからだ

試合に関するすべての感情を塞ぎ、キャプテンとしての役目を淡々と進めていた

それを感づかれたくなくて話を早く切り上げる

ふと視線を向けた先に伊月がいた

伊月は思いのほか普通の顔をしてこちらを見つめている

そういえば試合後も泣いてなかった

悔しくないわけはない、我慢しているはずだ

「そんじゃ着替えた奴から外出ろ」

こんな指示もありきたりだが、少しだけ期待を込めた

着替え終わった俺は立っていた場所の近くのベンチに腰掛ける

そしてみんながそれぞれの想いを抱いてロッカールームから出て行くのをぼんやりと眺めた

そんな中、期待通りにわざとゆっくり着替えた伊月がロッカーに寄りかかり、部屋を見回した

もう部屋には俺と伊月しかいない

目を閉じ、悔やまれる試合の場面を思い返すと手が震え始め、それを隠すように固く握り締める

負けてから後悔しても遅いのはわかっていても後悔してしまうのはしょうがないことだと、今は言わせてほしい

部屋が嫌なくらい静かで、それが自分を押しつぶすように錯覚してしまいそうだ

「日向」

それを察してか、静寂に耐えかねたのかはわからないが伊月が俺を呼ぶ

「日向?」
「……」
「日向…?」

伊月の声色が不安に染まるのがわかった

返事しないといけないのはわかる

でも、チームメイトがいなくなり伊月とふたりだと思うとどこか安心して気持ちがゆるむ

俺だって負けたのが悔しくて、不甲斐なくて…

「あのさ、日向…やっぱりみんなには先に帰ってもらおうか」
「……待て」
「…っ!」

自分でも驚くくらい声に覇気がなかった

これだからもう声を出したくなかったんだ

外に出ようとした伊月の腕を掴み、制する

そのおかげで手の震えが伊月に伝わってしまったようだ

「……日向…わかった、けど」
「わかってる。少しだけでいい」
「うん…」

俯いた俺の目からは涙がこぼれていた

もう止める気もない

ただ伊月の腕を掴んだまま声を殺して泣いた

泣き始めると塞いできた感情が溢れ出す

隠してきた不安で満ちていく

それは不意に動いた伊月に抱き締められて爆発した

「……俺が…俺がキャプテンだから…っ…だから負けて…俺がもっと正確な…シュートが打てれば……っ!…悪かった…みんなを、勝たせてやれなくてっ…!」
「…っ…やめてよ…そんなの、日向らしくない……オレのゲームメイクだって……勝てたかも、しれないのに…ごめん…っ…」

いつの間にか泣き出した伊月が俺の肩口でごめんとつぶやく

それがあまりにも痛々しくて余計に涙が出てくる

俺は伊月の笑顔が見たかったのに

こんなに泣かせてしまっている

「…キャプテンを…勝たせて、あげるのがオレ達の役目、なのに…っ」
「…伊月」
「オレは…日向を、勝たせたくて…っ…キャプテンとか、そんなの、関係なくて…活躍、してほしくてっ…」
「もうなにも言うな……」

震える手で伊月の背中をさする

そしてもうこれ以上力を入れても密着できないのはわかっていても強く強く抱き締める

いっそこのまま涙で溶け合ってしまいたい

そうすれば伊月の痛みも俺のものになる

「ひゅうがあ…っひゅ、があ…っく…」
「…伊月っ」
「…んっ……ひゅ、が…?」

人間らしく声をあげて、それも俺の名前を呼びながら泣く伊月が愛おしい

少しでも想いが確かに届くように、そう思うと唇を重ねていた

驚いたような伊月の表情に落ち着きが戻ってくる

涙でぐちゃぐちゃな伊月の頬を手元のタオルで拭うと、ふっと微笑みかけられた

それに今度は俺が驚くと伊月はタオルを奪い、俺が伊月にしたように涙を拭ってくれる

そして見つめ合うとどちらともなく笑い始めた

「ひどい顔っ」
「伊月こそ」
「いいの、日向の前だから」
「…だあほ」



負けるのはもちろん悔しいし嫌だ

それでも支えてくれる人がいるから受け入れられる

今度は勝とうと前向きになれる


そしてまた俺たちは絆を深めて強くなる



(次は勝つぞ)
(また泣きたくないから?)
(ちげえよ…まあ、伊月を泣かせたくねえけど)
(日向を信じてるからもう泣かない)
(ばっ…かわいいこと言うなよ)





−*−*−*−*−*−

祝!黒バスアニメ2期!

試合には勝敗があります

いつか負ける話を書きたいと思っていました

強くなった彼らがまたアニメで見られるということでこのタイミングで公開してみました

キャプテンである日向にちょっぴりつらい想いをさせてしまいましたが、伊月に支えてもらいながら成長していることでしょう

今後も彼らの活躍に期待ですね!




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