BL−boys love

□青空とヒヨコ
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つまんない、なにをしてもつまんない


真似すればできてしまうことばかりですぐにつまらなくなる

なんでもできるから人から妬まれる


モデルができる容姿は女の子に持て囃される

代わりに男子には避けられる



こんなオレはどんどん周りから隔絶しようとしてしまう

当たり前じゃないか

やることもそこにいることさえも穏やかではないのだから

話をした所で嫌みと言われるし、居場所なんかあるわけがない


オレはただ、真っ暗闇で"なく"ヒヨコなんだ――







「黄瀬くん!今日時間ある?デートしない?」


めんどくさい


「ずるーい!あたしもデートしたい!」


うるさい


「ねえ、黄瀬くん!」
「黄瀬くんってば!」


なぜ、なぜこんな風に……


「今日はこのあと用事があるんス…ごめんね」

「そうなの?残念っ!」

「じゃあまた今度ね!」

「うん、またね!気をつけて帰るっスよ〜」


……笑わなきゃいけないんだ


この笑顔が作り笑いかどうかなんてわからない

顔が勝手に笑うから


「痛っ」

「へ?」


どこからか聞こえてきた声に驚く

ついマヌケな声が出てしまった、と口をふさいだら目の前に男の子が倒れていた


「大丈夫っスか?」

「あ、はい…すみません、ボーッとしてたもので」

「えっと、どっか痛くない?」

「平気です」

「ならよかった」


さっと手を差し延べ、立たせてあげる

どこか儚げなこの男の子は今にも緩やかな風に溶けて消えてしまいそうだった

なにより、風に揺れる空色の髪に釘付けになっていた


「そろそろ離してもらえますか?」

「え?あっ?!すんません!!」

「いえ、ありがとうございました」


そう言ってどこかに走って行ってしまった

追い掛けるのもなんだか失礼な気がして、そのまま帰宅した



――これが愛しい人との出会いだった







オレの世界が180度変わったのは青峰大輝との出会いとバスケ部に入部したことのおかげだった

こんなに夢中になれるものがあったなんて知らなかった

こんなに楽しいものがあったならもっと早く知りたかった

オレはどんどんバスケに惹かれていった


そして、黒子テツヤという存在にも惹かれていった


入部して驚いた

バスケ部にあの空色があったから

オレを見て真っ先に逃げて行かなかった男の子

空色がまぶしくて、真っ暗闇に光が差したように思えた彼がそこにいた


これはもう、アタックするしかない

そう思ったけど、彼のバスケセンスはダメダメだった

ボールがゴールネットを揺らすこともなく、正直なんでバスケ部なのか理解できなかった

でもそんなことはすぐに解消された

一緒に試合に出たときすべてがわかった

彼のパスはいつも思い通りに、適切にこちらに向かってくる

それはコート内を自由に動き回る

まるで風のように





「黄瀬君?」

「わっ!?」

「どうしたんですか?」

「ちょっとぼーっとしてたんス」

「珍しいですね」

「ずっと元気いっぱいなのも疲れるんスよ?黒子っちの前くらい、息抜きしたって罰当たんないと思うんだけど」


放課後、というか練習後、愛しい黒子っちの部屋に来ている

目の前に黒子っちがいるのに中学校のときの黒子っちを思い出していた

なんでだろ

手を伸ばせばすぐに届く距離なのに触れることができない

なんで、なんで


「今日の黄瀬君、なんか変です」

「変?!」

「はい。いつもなら充電させて、と抱き着いてきます。でも今日はぼーっとして、ボクなんか見えてないみたいです」


見えてない、か……

確かにそうかもしれない

なぜか今日は目の前の黒子っちが見えてない気がする

自分でもわかんないけど、過去に気持ちが飛んでっちゃってるみたいで


「疲れてるんですよ、きっと」

「そう、かな…」

「少し寝てみたらどうですか?ちゃんと起こすので」

「ありがたいけど、寝たい気分じゃないっス」


シュンとした黒子っちの顔

どうして困らせてるんだろ

せっかく黒子っちの部屋に来てるのに

どうしてこんな空気にしちゃってるんだろ


「黄瀬君」

「なんスか?」

「見えてないのはボクのほうかもしれません」

「え?」

「黄瀬君がなにか真剣に考えてるのはわかってもなにを考えてるのかはわかりません。当然のことですが、普段なら少しはわかるんです。けど、今日は全くわからない。黄瀬君が見えてないのはボクのほうです」


黒子っちは静かに、そして落ち着いた声で話す

オレはすっかり呆気にとられてぽかんと口を開けていた


どうしよう

黒子っちが真剣にオレのことを考えてくれてる

うれしさ半面申し訳なさ半面で変な笑顔を浮かべてしまう


「ううん、黒子っちはオレのこと、しっかり見えてるっスよ。それにオレにも黒子っちはよく見えてる。だって黒子っちは……」

「黄瀬君?」


そこまで言って急に恥ずかしくなった

自分を"影"と言う黒子っちにはとても言いづらいことだったから


そう、黒子っちはオレにとって"光"であるから


「やっぱやめっス」

「どうしてですか」

「ヒミツにしたいことだったんスよ」

「ボクに隠し事するんですか?」

「うぅ…今はヒミツっス!いつか言えるときが来たら必ず言うから!ねっ!」

「しょうがないですね」


そう言って微笑む君はやっぱりオレの"光"だから


「黒子っち」

「はい」


どうか自信を持って


「怒らないでほしいっス」

「たぶん怒らないです」


影に隠れず輝いてほしい


「その……」

「じれったいですね」


少なくともオレにはまぶしすぎるほどだってことをわかって


「黒子っちのおかげでオレは笑えるんス」

「……?」


道しるべは君なんだ


「ありがとう」

「ボクはなにも…」


だからいつまでも照らしていてね


「黒子っち!だいすきっス!」

「…っ!?黄瀬君!」

「オレ、黒子っちのこと大好きなんスよ〜」

「どうしたんですか突然」

「言いたくなったんス!ずっとオレといっしょにいてくれる?」


笑顔で問い掛ければ、ちょっと困った顔で、でも微笑みながら答えてくれる


「ボクでいいなら、いっしょにいさせてください」

「いさせ…っ!?」

「ダメですか?」

「いや、すごくうれしいっていうか…もともとオレが言ったのに黒子っちったらもう…敵わないっス……」


そっと伸ばした腕に黒子っちが寄って来る

オレの中に黒子っちがすっぽり収まる、この体勢が1番落ち着く


「はあぁぁ…充電されるー」

「いつもの黄瀬君ですね」

「うん。黒子っちがそばにいるからっス!」



青空が好きなヒヨコが幸せそうに笑った



(ヒヨコ…)
(その呼び方やめてほしいっス!)
(前に自分で言ってたんですよ?)
(だからやめてっ!)





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