BL−boys love

□青空とヒヨコ その2
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女子にモテると男子に妬まれる

そんなことはわかってた

どうでもいいと思ってた


でもひとつだけ許せなくて悔しくて

なのに納得してしまったんだ


黄瀬涼太は真っ暗闇で泣く…

…鳴くヒヨコだって

そんな陰口を──







「黄瀬、問2を解いてみろ」

「え?あ、はい…」


授業中、ぼーっと外を眺めていると当てられた

モデルの仕事があって授業の内容を復習する時間もなく、正直当てられた問題もわからなかった


「すいません、わかりません」

「それじゃ誰か代わりに解け」


最近調子が悪い

体調ではなく、心が痛かった


今も感じる、オレをバカにする視線

嫌で嫌でたまらなかった

こんなこと今まで気にしたことはなかったのに

たぶん、たまたま聞いてしまったあの言葉のせいだ



練習が終わったあと、忘れ物を取りに教室に向かった

ドアを開ける前に中に誰かがいることに気付き、足を止めた


「だよなー。ほんと、最近調子乗ってる!バスケ部で下剋上らしいじゃん」

「でもアイツ、結構暗いとこあんだぜ」

「知ってる知ってる」


バスケ部というキーワードですぐに自分のことを言っているとわかった

気にせず教室に入ればいいのに、その声に耳を傾けていた


「学校の中ひとりで歩いたりさ。あんときの顔、ひどいよな」

「モデルって大変だよなー孤独の王子ってか」

「王子なんてもったいねえ。金髪だし、ヒヨコでいいだろ」

「おーいいねえ。真っ暗闇で鳴くヒヨコってか」


「……っ!!」


─真っ暗闇で鳴くヒヨコ

その言葉が頭の中で反響する

足が、身体が動かない

屈辱的なはずなのにどこか自分にぴったりで

あまりにも大きな衝撃を受けていた


「あ、黄瀬君!」

「っ?!」

「心配しました、なかなか戻ってこないので」


駆け寄ってきたのはバスケ部でオレについた教育係の黒子っちだった

心から心配したような表情で見上げてくる

その純粋さが衝撃を和らげ、動かなかった足が動くようになった


「ごめん、黒子っち」

「き、黄瀬君!」


迎えに来てくれた黒子っちには悪いけど、走って逃げるしかできなかった



この日からあの言葉が忘れられなくて、調子が狂ってしまったようだ

練習はいつものようにこなすけど、どこか集中できていなかった

みんなにも感づかれているのか気を遣われているような気さえした


「あの、黄瀬君…」

「なんスか?」

「今日一緒に帰りませんか?ふたりで」


練習前、黒子っちが珍しい誘いをしてきた

これは黒子っちの自発的な行動なのか、赤司っちに頼まれてなのかはわからない

本来なら大好きな黒子っちからのお誘いに感激するところだけど、今は気まずさがあって素直に喜べなかった


「い、いいっスね…」

「それでは、練習後に。絶対に先に帰ったりしないでくださいね」

「う…わかったっスよ」


黒子っちに釘を刺され、半強制的に一緒に帰ることになった

実際うれしかったから練習に真剣に取り組むことができ、それも周囲に伝わったようだ

ひさしぶりに満足のいく練習ができ、気分良く着替えをしにロッカーに向かう

そこで再びあの言葉を聞くことになるとは思ってもいなかった


「なあ知ってるか?黄瀬ってヒヨコってあだ名がついてるらしいぞ」

「そうなのか?知らないな」


部活にも広まったらオレの居場所がない

そう思うと突然身体が震えだし、部室から逃げるように走った


「その話、聞かせてもらえますか?」

「うわあ?!黒子か…」

「ボクに伝えたらもうこの話はしないでください」


走ってたどり着いたのは、普段使われていない空き教室の前だった

誘うように開いているドアを見ると自然に中に入っていた

教室はもう薄暗く、その暗さが心を落ち着かせてくれる


急に更衣室を飛び出したから驚かれたかもしれない

黒子っちとの約束も破ることになって、怒らせちゃったかもしれない

いろんな想像がさらに自分を追いつめていくのがわかる

でも悪い考えがどんどん浮かんで止まらないから、教室の隅にしゃがんで膝に顔を埋めた

……もう、このまま消えてしまいたい


自分とこの世界とを隔絶しようとした時、廊下から走る音が響いてきた

なぜ鮮明に聞こえるのかは顔を上げるとすぐにわかった

開いていたドアを閉めなかったからだ

このままだと誰かに見つかってしまう

そう思うと怖くなり、さらに教室の角に身を押しつけて息を潜めた

足音が近付き、やがて止まった

不思議と怖くない


「黄瀬君?大丈夫ですか?」

「黒子っち……」

「はい、ボクはここにいます」


俺の目の前に目線を合わせるようにしてしゃがんでいる黒子っちを見ると強ばっていた全身の力が抜けた

視界がぐにゃぐにゃに歪み、頬に熱いものが伝う

ぎこちなく頭を撫でられ、ギュッと胸が苦しくなった

さらに暗さが増したこの部屋に光が射した気がする


「く、黒子っち…オレ……」

「もう大丈夫です。ボクがそばにいますから」

「……っ」

「辛かったのに助けてあげられなくてすみません」

「くろこっちぃ…っ」


黒子っちが愛しくて、泣いているのも忘れて抱き付いた

その勢いに耐えきれなかった黒子っちはオレと一緒に床に倒れ込んだ

もう我慢できない

衝撃でぽかんと開いた口に唇を重ねた

最初は驚いていたような黒子っちもすぐにオレを求めてきた

控えめにTシャツを掴んでくるから遠慮なく深く口付ける

さっきまであんなに不安でたまらなかったのに、今は頭の奥が痺れてとろけそうになっている

ゆっくり離すと苦しそうなのに幸せそうに笑う黒子っちが飛び込んできた

そしてふわりと微笑みかけてくる


「黄瀬君、ボクは味方です」

「…っ黒子っち大好き!」

「というかボクも好きですから」

「えっ?!」

「…黄瀬君のこと」


今の笑みは消え、顔を真っ赤にして目をそらしてしまった

でも、そんな黒子っちが愛しくてたまらない

ギュッと抱き締めて何度もありがとうとつぶやく

こんなのじゃまだまだ足りないけど、これから時間をかけてすべてを伝えられたらそれでいい


「皆さんが帰った頃に着替えに行きましょう」

「そうっスね」

「あの…ボクも黄瀬君の力になります。あのあだ名」

「あーあれっスか?なら大丈夫っス」

「え?」

「だって、あの通りになっちゃったし…すごく的確でしょ?」


黒子っちが味方だと思うと気分も軽くなり、どうにかなるような気がしてきた

むしろあだ名が面白く感じてきてしまった


「ヒヨコ、なんてかわいくないっスか?」

「そうですか?黄瀬君はヒヨコというより犬みたいですけど。さっきも飼い主にじゃれた犬のようでした」

「えぇっ?!」

「ウソです」

「ウソ?!ちょっと冗談はよしてほしいっス!」

「冗談は苦手です」

「どっちがホント?!」

「さあ?」

「黒子っちーっ!!」


黒子っちとじゃれるようにして笑い合った

やっぱりオレには黒子っちが必要で、キスでお互いを求め合うだけじゃなくて、こんな風に喋る時間も幸せに感じられる


今日は手を繋いで帰ろう

黒子っちへの感謝も込めて繋ぎたい

そう強く思ったのであった







「で、あの日は結局どうしたんでしたっけ?」

「黒子っちが嫌がったから手は繋げなかったんスよ!」

「嫌がったわけではありません。恥ずかしかっただけで…」

「え?!そんなの聞いてないっス!」

「言ってないから当然です」


しれっとした顔で言い切る

そんな黒子っちには適わなくて

でもこういう時には後ろから抱き締める


「黒子っち?」

「…今でもまだ恥ずかしいんですから」

「手繋ぐのが?」

「そうですよ…」


ふいっと顔を背けるけどそれはオレの腕の中だから全く意味をなさない

そっと黒子っちの手にオレのを重ねる

それと同時に髪にキスを落とす

びくりと震えたのがまた愛しくて指を絡める


「ヒヨコが泣かないように道しるべになってね」

「その必要はないです。ヒヨコがうるさく鳴くからボクは遠くから見守るので十分ですよ」

「せめて近くで見守ってほしいっス」

「学校が違うから距離的には遠くです」

「心は?」

「……近くでもいいですよ」

「やった!」



これからもヒヨコは青空の下で笑い続ける



(黄瀬君、少し屈んでください)
(ん?なに黒子っち?……わっ?!)
(黄瀬君の髪、本当にヒヨコみたいです)
(黒子っちはきれいな空色っスよね。一目惚れだったんスよ)
(……っ!!)
(照れちゃう黒子っち…大好きっス!)





−*−*−*−*−*−

続編でした

黄瀬と黒子の距離が縮むきっかけがこうだといいなーがこんな感じです

黄黒はじゃれ合うとかわいいです、髪色的に(^o^)

ひとまず【青空とヒヨコ】はこれで終了です

またネタが浮かんだら書くかも?

ありがとうございました!




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