桜恋唄 番外編 〜その壱〜

□涙
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ちらちらと蝋燭の灯りが揺れる。

淡く空間を照らすそれは、ほたるの頬にも紅を映し、辺りを染めた。


その頬に、そっと指を伸ばす。

だが、そこはひんやりと冷たくて。

僕は、ほたるに掛けられた毛布を、首元まで少し引き上げた。



“そう、じ……?”



僕の声に、先刻のほたるの表情と声が、頭を掠める。

瞳を揺らし、小さく震えていた彼女。



あの場で何が起こったのか……そんな事、聞かなくたって理解出来た。


もう少し早く、僕が駆け付けていたのなら────。


ほたるは、傷付かずに済んだのかもしれない。

彼女のあんな姿を、見なくて済んだのかもしれない。



そして、ほたるは意識を手放した。

その刹那、彼女の瞳から、ぽろりと何かが零れ落ちるのを、僕は見逃さなかったんだ。



「……君に涙は、似合わない」



僕は、ぼんやりと、彼女に初めて会った日の事を考えていた────。



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