桜恋唄 〜その壱〜

□第十二話
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広間に入って行った後ろ姿。

それを見た俺は、その背を追う。


……あれは間違いなく総長だ。

左腕を負傷してからというもの、総長は自室に篭りっ切りで、なかなか顔を合わせる機会がない。

加えて今日は、今朝の一件もあり、彼が思い詰めて何か良からぬ事を考えるのではないか……と些か心配していた。



『総長、どうかしま────』



どうかしましたか……そう続けようとした言葉は、俺の呼び掛けに振り返った彼の表情によって消される。

総長は、全てが解決したような、不思議なくらいに爽やかな笑顔を浮かべていた。



……ふと、その手元で何かが揺れる。

彼が手にしていたのは、硝子の小瓶。


中には、毒々しい真紅の液体が満ちていた。



「……これが、何か君なら分かりますよね?」


『総長……!』




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