桜恋唄 〜その壱〜

□第十七話
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目の前に映る、あの光景。

その場から動けず立ち尽くしたまま、
ただそれを見つめる。



『総長……!』


「綱道さんが残した資料を基にして、私なりに手を加えたものがこれです。原液を、可能な限り薄めてあります」


『ですが、それはっ……』


「服用すれば、私の腕も治ります。さして分の悪い賭けではありませんよ」


『いけません!総長、止めて下さい!!』


「私は最早、用済みとなった人間です。────剣客として死に、ただ生きた屍になれと言うのであれば……人としても、死なせて下さい」



緊迫した声。

水の揺れる音。

割れたガラスが一面に飛び散り、暗闇で妖しく光った。


そして────。

耳をつんざく、叫び声がこだまする。



『…………っ!!』



耳を塞ぎ目を瞑って、全ての音と視界を遮断し、その場にしゃがみ込む。


また、私の……私のせいだ。

私が、全てを奪ってしまったんだ…!!


何も、聞きたくない。

何も、見たくない。


涙が、頬を伝った。


私なんか、いなければよかった……。

いなければよかったんだ……!!


苦しくて、悲しくて、情けなくて。


どうして、どうして……!!


私さえいなければ、誰も傷付かなかったのに。

私さえいなければ、皆笑っていられたのに。

私さえ、いなければ……。


このまま消えてしまいたい。

もう、誰も失いたくないの。


……ううん、もう、辛い思いはしたくないんだ。


だから、お願い────。




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