桜恋唄 〜その壱〜

□第二十四話
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『……実はさ。生まれは、長州なんだ。俺』


「……え?」



如月さんの口から出た言葉に、私は目を瞬かせた。


長州……?
新選組と、敵対している……?


でも、如月さんは……。



『母親は何処か別の出身らしいけど、父親がそこの人。裕福ではなかったけど、温かい家庭だった。────そんな中で、俺は育ったんだよ』



にこりと、如月さんが微笑む。



『山があって、川があって、海があって。良いところだったよ、あそこは。皆で川遊びに行ったり、山菜を採りに行ったりもしたっけな……』


「素敵なところだったんですね……」


『うん、本当に。……でも、ある日。母は突然、姿を消した。ちょっと出掛けてくると出て行ったきり、帰ってこなかったんだ』


「……えっ……」



私は思わず声を上げてしまう。



『暫く経った頃、父は俺の為に……新しい人を迎えてくれたんだ。二人は昔からの馴染みだったらしくてさ。その人には息子がいて、年も同じだったから、そうなる以前からよく一緒に遊んでた。向こうも旦那がいなかったみたいだし、丁度良かったんだろうね』


「……家族が増えたんですね」


『うん、まあね。だけど……』



如月さんの表情が、僅かに曇った。




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