桜恋唄 番外編 〜その壱〜
□削り氷
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「はい。今は幕府直参の旗本で、奥詰役を務めています。新選組の話は耳にしていましたが、まさかほたるちゃんまで名を連ねているとは思ってもいませんでした」
そう言って伊庭さんはにっこりと微笑んだ。
彼とは、まだ江戸に居た頃────。
試衛館で毎日を過ごしていた時に、良く顔を合わせていた。
伊庭さん自身、江戸で四本指に入る道場のひとつ、心形刀流伊庭道場の跡取り息子だ。
「折角だから、二人で出掛けて来たらどうだ?ほたる、お前も最近働き詰めでろくに休んでなかっただろ。池田屋の時も無理させちまったしな……。良い息抜きになるんじゃねえか」
『俺なら大丈夫です。心配には及びません』
「お前の話をしたら、此奴がお前に会いてえって言うんで、戻ってくるのを待ってたんだ。それくらいしてやらねえと、失礼だろ?」
すると伊庭さんは、慌ててその言葉を否定する。
「トシさん!何を言ってるんですか!彼女を困らせるような事は、言わないで下さい」
『?ええと、気にしないでください。俺は何も困っていませんから……』
伊庭さんと俺を交互に見て、副長はふっと笑みを洩らす。
「……ま、良いじゃねえか。さっさと行かねえと日が暮れちまうぞ」
こうして俺は、伊庭さんと二人で京の町に出掛ける事になったのだった。