桜恋唄 〜その壱〜
□第一話
2ページ/5ページ
文久三年十二月────。
朝から雪の降る寒い日だった。
任務から戻った俺は、灯りの灯る一室の前にいた。
『副長、如月です』
「入れ」
『失礼します』
襖に手を掛けると同時に、室内へ冷たい冷気が流れ込む。
『只今戻りました』
「ご苦労。しかし今日は随分と冷えるな……ってお前、ずぶ濡れじゃねえか。それくらい拭いてから来たってバチは当たらねえよ。風邪引くぞ」
呆れ返った声に顔を上げ、苦笑い。
すると急に手が伸びてきて、副長の指先が軽く睫毛に触れた。
「此処にも雪、積もってる。……変わらねえな、お前は」
その視線はひどく優しくて、何だか気恥ずかしくなった俺はつい目を逸らしてしまう。
「ほら、使え」
そう言って副長は手拭いを差し出した。
『すみません』
おずおずと受け取り、雪で濡れた身体を拭く。