桜恋唄 〜その壱〜

□第一話
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「それで、どうだった?奴らにまだ動きはねえか」


『ええ、今のところ進展はなさそうです。仮にも現在は……、ですが』


「そうか。まあそう簡単にボロは出さねえか。とりあえずお前はそのまま張り込みを続けろ。どんな些細な事でも良い、変化があればすぐに知らせてくれ」


『御意。……それからもうひとつ。今日仕入れた情報で真偽はまだ不確かなのですが……』



一呼吸置いて、先を続ける。



『どうやら、雪村綱道氏には娘がいるようなのです』


「娘、だと?」



紫紺の瞳が、僅かに細められる。



『はい。しかし彼女は此方に来ておらず、恐らく綱道さんの実家である江戸にいるものと思われるのですが……。もしかしたら、綱道さんの行方を知っているかもしれません。……副長、俺に江戸への遠征許可を下さい』



腕組みをしたまま、思案する彼の表情を黙って見つめる。



「……そうだな、近藤さんとも話してみる。少し待っててくれ」


『ありがとうございます。お願いします。……それより副長。こんな日に火鉢も焚かずに過ごしていたのですか?』



ぐるりと部屋を見回すが、暖を取る為の物が何一つない。



「あぁ?問題ねえよ。俺は外の巡察に出てるわけでもないしな」


『だからって……。副長こそ風邪引きますよ?倒れたりしたらどうするんですか!もっと自分の身体を労って下さい』


「お前なぁ……。言える立場かよ」


『ちょっと俺、温かいお茶でも淹れて来ま────』


「土方さん大変だ!!」



突然勢い良く音を立てて襖が開いたと思ったら、息を切らした平助が飛び込んできた。




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