桜恋唄 〜その壱〜
□第二話
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『おはよう、起きてる?』
「はっ、はい……!おはようございます……!」
突然襖の向こうから掛けられた声に驚きつつ、慌てて返事をする。
開かれた隙間から、人の良さそうなおじさんと、目鼻立ちのはっきりした青年が顔を覗かせる。
確か、井上さんと如月さん……だったかな?
「すまないなぁ、こんな扱いで……。今少し縄を緩めるから、ちょっと待ってくれ」
さすがに解いてはもらえなかったけど、私がお礼を言うと井上さんは小さく笑った。
『今朝から幹部連中が君の事について話し合ってるんだけど……。君が何を見たのか確かめておきたいって事なったんだ。一緒に来てくれる?』
「分かりました……」
きっと私に断る権利なんてないのだろう。
俯き加減で立ち上げる私に、如月さんは柔らかな笑顔を向けて言った。
『大丈夫、心配しないで。口は悪いけど、皆良い人だから』
「はぁ……」
新選組の評判は良くない。
町では無慈悲な人斬り集団だと噂される。
そう聞く私に、いくら彼らを【良い人】だと言われても……。
そんな事を考えながら、私は部屋を後にした。