桜恋唄 〜その壱〜
□第五話
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『へえ、お兄さんも長州の生まれなん?どの辺?』
とある昼下がり。
お客さんと他愛ない話をしながら、時間が過ぎていく。
「わしは鹿野の方じゃ。お主は何処やね?」
『うちは周防。知っとる?』
「おう、知っちょる知っちょる。あの辺りは海も山も川も近うて住みやすいところじゃろ」
『ええ、ほんまに』
くすくすと笑いながら、相槌を打つ。
……その時、何やら通りの方が騒がしくなった。
「何や煩いなぁ」
『喧嘩でも始まったんやろか』
表に出ようとしたところを、ひょいと引き戻される。
「お前は中におり。……坊っちゃん、そこの坊っちゃんも、巻き込まれんよううちの店へ入りや」
「え?……あ、あの、もしかして桝屋さんですか?……」
店主と話すその声を耳にした瞬間、嫌な予感が掠める。
それが外れる事を祈りつつ、恐る恐る振り返ると、同時に客のうちの一人が声を上げた。
「き、喜右衛門さん!そのガキ、さっきまで新選組の沖田と一緒にいたぜ!?」
「なっ!?」
「新選組だと!?逃げろ!」
お店にいた客までもが逃げ惑い、そこに、浅葱色した羽織を着た人物が飛び込んでくる。
「あーあ、君って本当に運がないよねぇ。ある意味此奴らも、僕も、だけど」
予感的中。
目の前で、大捕り物が、始まった。