血界戦線

□埋葬は海底で
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いつもの異常な日常が頭の思考を支配している。
特別珍しい事ではない、しかし、悲哀のわだかまりは心に住み着いて離れなかった。
それでも、彼女は戯けた顔で俺を笑っているのだろう。
そう思うと、地に顔を晒すくらいには、俺の表情は乱れていた。

「…スティーブン、式についてだが…」

何時もはその瞳に笑みを映すクラウスの目は
やはり、俺と同じ様に悲哀に溢れていた。

「名無しの望み通りに…弔ってあげよう…」

「…そうだな、」

彼女は、故郷の葬祭の様に遺体を燃やして
骨を粉にして、海に撒いて欲しいと
ライブラの面々に常々言っていた。
彼女は、戯けている様で悲観的だった。
本当は、海底に埋葬して欲しいのだけれどね
と、当面は無理な理想を抱いていて
今になって、その方法が何処かにないものかと本気で考え始めている。

「チェインや、K・Kは?相当、落ち込んでいるだろう?」

彼女と仲の良い二人だった。
やはり、同性という事で本心が漏れる事が多くて
よく、彼女の相談を受けていたのを街中で見かけた事もあった。

「意外にも、落ち着いている。こういう時、女性は強いものだ」

「そうか…、少年とザップは?」

「泣いている。…何しろ、目の前で…」

「あぁ、そうだったね…」

彼女とは少年とザップは男性の中では
友人的な意味合いでなら特に仲が良かった。
後腐れのない関係、悪友の様な兄弟の様な。
事務所で戯れる姿も日常茶飯事の一部だった。
そんな彼らは、彼女の死を誰よりも早く
誰よりも近くで、誰よりも鮮明に目にしていた。

「彼らの代わりに、俺がしっかりしなければいけないね…」

「…スティーブン、無理はせずとも…」

「…彼女の為にも、さ」

彼女は泣かれるよりも、笑われた方が良いと言っていたろう?
顔を伏せたまま、震える声を律する。

「…そうだな」

例え滑稽でも、悲しくても、笑った顔が好きだ。と言っていた
喜楽の感情のままに笑うも、悲哀を押し殺して笑うも
それが自分に向けられたものならばどんな笑みであれ、いっとう愛しい。と言う君に
当時は、悲しくても笑えだなんて酷い人だな、と苦笑したのを覚えている。

「…すまない、クラウス。少し遅れてからそちらに向かうよ」

「…あぁ、…皆も少し時間が必要だろう」

そう言って、クラウスが会議室の方へ向かう。
身寄りのない彼女の葬式について皆で話し合う事になっていたが
暫く、後になりそうだった。

「…海底へ埋葬なんて、君は死んでも無理難題を言うな」

自分の赤い瞳が湧いたように熱い。
粒は手の甲を滑って何処かへ流れていく。
あぁ、せめて散骨が終わったら
息が続く限り、海に顔を沈めよう。
そして、愛の言葉を泡にして捧げよう。
今更、何を言っても遅いが
その言葉が、航海を経て君に届けばいい。

「…名無し、俺は君を愛しているよ」

君が、俺の唇を奪った昨日の夜に
愚かにも、少し考えさせてくれ、と伝えた事と
君の身体へと愛を囁かないでいた事を後悔している。

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