二万感謝企画

□09.
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グラウンドを物影から見守る影が一つ。一点に視線を集中させて、じ、と見詰めているその眼差しは、彼、仲沢呂佳の体躯からは考えられない程に、穏やかで優しい、しかしどこか熱を孕んだ一一一そう、恋をした少女の様な眼差しだった。

(勇人くん…)

フェンスに凭れかかり、彼の視線の先、栄口勇人の白球を追い、汗をかく姿に惚れ惚れとしつつ反芻する様に目を閉じた。それは、瞬きにしては短い、しかし黙祷には短すぎる様な少しの時間。それなのに、目を開けた先のどこにも、栄口の姿は無かった。

きょろきょろ、と辺りを捜すけれど栄口の姿は見当たらず、呂佳は栄口が怪我でもしたのではないか、と嫌な想像に顔から熱を下げた。

「やっぱり呂佳さんだ」

聞き慣れた、そして恋い焦がれた声にびくり、と跳ねて振り返ると、そこには捜し求めた姿、栄口がいた。

「ゆ、勇人君!?何で…?」
「さっき呂佳さんが見えたから」
「でもでも、この距離じゃ…っ」

呂佳は自分の立っている場所と、西浦高校野球部グラウンドを交互に見比べ、顔なんてわからない、と呟けば、呂佳さんも俺がわかったんでしょ?わかるよ、と笑った。


【かくれんぼ】


(どこに隠れたって呂佳さんなら見付けられる自信、俺あるよ)



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