二万感謝企画

□13.
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「何処に行くの?」

風に藍色の髪が踊る。窓の外に乗り出した身体は、びく、と震えた。しかしそれもすぐに落ち着かせ、振り返ると、見付かってしまいましたか、と六道骸はおどけてみせた。

「結構優遇してあげたと思うんだけどなあ」
「えぇ、ここは居心地が良かったですよ」
「だったら、どうして?」

歩み寄れば、六道骸は窓枠に足を掛けて、それを制止した。そして上枠を掴む手の片方をこっちに伸ばしてみせた。掴もうと手を伸ばすと、見えるんです、と手首に視線を落とし、手を掴むことを拒否する雰囲気を作り上げた。何が、見えるのか。問うてみれば、どこか自嘲気味に笑って言った。

「この手首に、手錠が。」
「一一手錠?」
「えぇ。まあ、そんなものはまやかしに過ぎない、妄想の類ですけれど。」

それでも僕には、見えるんです。と手首を自身に引き戻すと、手を固く閉じ、何かを思い起こす様に目を閉じた。そして、目をゆったり開くと、これが僕を誘うんですよ、と言った。何処へ、とは愚問で、彼の下へ、ですと返された。六道骸の言う「彼」は言わずともわかる。雲雀恭弥のことだろう。一体どこまで僕の邪魔をすれば気が済むのか。一々カンに障る男だ。

「僕の手錠は受け入れてくれないの?」
「残念ながら。もう手一杯なんです」

くすり、と笑うと六道骸の両手は枠から離れ、身体は傾いだ。それに恐怖などカケラも感じていない、と笑顔が告げていた。それに伴い、名残惜し気に足も枠から離れていった。彼は、落下、する。彼の唇が、さようなら、を紡ぐ。彼の身体は、白い服を纏った、見慣れた物に変わった。あの、おどおどとした、どこか優しさを孕んだ眼差しで微笑んでいた、僕だけを見てくれていた彼に。手を伸ばした刹那。彼は地面に衝突し、僕の掌は空をきった。


【手錠】


(彼の手に錠をかけられるのは僕じゃない)



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