二万感謝企画

□32.
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妖精さん一…森羅万象が俺に応えてくれた、あの時。俺は宵風を消すことが出来た。なのに、妖精さんが俺にあの言葉を問いかけるまで、宵風の命を救って、と願い乞うつもりでいたことに驚いた。

一消すの?

びく、と心の臓が震えた。宵風を消す、これは俺の意思だから、誰にも変えられない。そう思っていたのに、俺はあっさりとその考えを捨てていた、その事実を宵風や妖精さんに責められた気がした。

それでも、消せない。それに違うんだ、消せるわけがない。だって俺は宵風とお別れをしていないんだ。バイバイ、と言うことも、抱きしめることも抱きしめられることもしていない。舌で、指先で、眼で、耳で。身体全てと心で宵風を感じて、忘れてしまっても心に名残を刻み込む。それをしてからだ、と決めているのだから。

一ウソツキ。

嘘じゃない、身体だけじゃなく頭だけじゃなく。心まで宵風を忘れてしまったら、俺は、生きていけない。本当なんだ。

一心に名残があれば生きていけるのなら、もう今日迄の月日という名残があるじゃない

そう、本当は気付かないフリをしているだけで、わかってた。今まで言ったことも、本当。つまり半分は本当。宵風とお別れしたなら宵風を消せる、なんて嘘。存在を頭と身体が忘れるのに、無くなるのに。周りの口から、宵風の名が現れることも無くなるのに。心は残るなんてありえない。そう信じたい俺の、宵風を消すつもりのない俺の。下らない、嘘。

妖精さんが応えてくれない、だとか、わからない、なんて。お別れはきちんとしたい、なんて願いも。全て、全てすべて。嘘への基盤で。宵風を消したりなんて出来るわけがない俺の、大きな大きな嘘への基盤。

宵風を消したりなんて出来ないし、気羅にだってさせない。俺は宵風を消す為に森羅万象を習得するんじゃない。宵風『の願望』を消す為に森羅万象の全てを、この掌に掴むよ。

疑い無く俺に願い、信じ、微笑む宵風に胸が軋まないと言えば嘘になるけど、この時間を愛してるから。温かい、優しい時間が宵風に苦しくて痛いものだとしても、それを見て胸の空洞が刔られて痛んでも、もう俺の信念は曲げられない、曲げさせない。

だってね、宵風。今のこの痛みより、宵風が居ない世界で生きる事の方が怖くて、痛いんだよ。


【痛いんだよ】


(ごめんね、宵風)



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