二万感謝企画
□34.
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白蘭さんは僕の身体に触れることが無くなった。その次に、日本に飛ばされた。わかってしまったのだ。僕は彼にとって魅力の無くなった、つまり価値の無い玩具となってしまったことを。
僕と白蘭さんに残された糸はもはや、トゥリニセッテだけになった。彼は僕の仕事ぶりだけは今もなお高く評価してくれているから、きっとずっと棄てられはしない。つまりは飼い殺し状態のまま僕は、僕だけは彼を想わざるを得なくなった。
そんな時、僕みたいな平凡な玩具とは違った、新しい好奇心を掻き立てる六道骸が現れた。僕は飼い殺しても貰えなくなる自分を恐れて、白蘭さんの癖が染み付いたこの身体で彼を誘った。
だけど軽くかわされて、僕の手は彼の背中に届かず、宙をきった。それをさらに伸ばして、何度も何度も彼がもたらす痛みと快楽から飛んでしまいそうな意識を引き戻す為に痕を付けていた背中に爪を伸ばした。
白蘭さんも思い出せばいい。白蘭さんの性欲処理機に成り下がろうが、同情だろうが、なんだっていい。ただ身体だけでも彼に愛して貰えたならそれでよかったんだ、僕の愛してさえ貰えなくなってしまったこの身体は。
「正チャンの仕事は日本にあるよね」
手首を掴んで、指先一つ動かせなくさせる艶な瞳は笑っていなかった。冷淡なその全てに、もう要らないんだ、と告げられた気がした。
僕の爪は白の快楽の中で赤い媚薬に触れてしまったから、まだあの熱を求めて白蘭さんの背中に傷痕を残せるあの「仕事」を強く欲した。
触れたい、僕の物だという烙印をあの無防備な背中に刻み付けて、灼き付けて。そう、願うのに。
あの恍惚とさせられる甘い快楽は、僕の物ではなく、それを頑なに拒み続ける別の誰かの物である六道骸の物なのだ。なんて残酷な人なのだろうか、あの人は。
僕以外を見ないで、飼い殺しでも構わないから。飼い殺しは嫌だ、愛して。それが叶わないのなら、どうせなら。プレッシャーじゃなく、貴方の指で僕を殺して下さい。そうしたら、僕は貴方にしがみついて、爪を立てる。そしてそのままあの感覚と共に死ねるのに。
【爪】
(僕の爪だけが熱を帯びる)