二万感謝企画

□39.
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エストラーネオファミリーの実験台の子供たちの中に白様がいたことを前提にした捏造小説です。




一いやだ、離せっ!

忌まわしい幼き記憶。それは思考を支配してゆく。無力で、何も掴めなかった僕のこの手は、今、ミルフィオーレファミリーのドンの地位を掴んで、望んだ物を引き戻した。

一…くんがいなきゃやだあっ

実験台の中に埋もれた僕を気に入った、もう名前も思い出せないあのファミリーのボスは、僕を高値で買い取った。藍色に儚く揺れる、それでも強い意思を宿した青の双眸が印象的な彼も共に、という僕の願いも受け入れられることもなく僕はあの日、縋る子供たちの手を振り払い、買われて一人だけ救われるはずだった。

一やめ…っうあぁああああっ

絶望と赤に彩られた世界。あの艶とした青の双眸の内の右側は、それを映すかの様に、赤かった。子供心に、ビー玉の様なその綺麗な眼が自分だけに向けられたら、と欲した。

一白蘭様、逃げましょう!

僕を欲したマフィアの下っ端であろう男は僕の手を引き、その場から逃げ出そうと試みた。だけど僕は、その手を振り払い、彼の下へと駆けた。欲しい、欲しい、欲しい。金も地位も幸せも要らない。あの少年の視線が、否、あの少年全てが欲しい。傍にいて。そう、願った。

「一緒に、来ますか?」

そう願った僕に、ではなく、さして目立たぬ少年二人に、その手は差し延べられた。僕も連れて行って、その一言が言いたくて。止まった足を動かした、けれど追い掛けて来た男は僕を抱えてその場から逃げ出した。

僕を欲したマフィアを僕は数年経た後、支配し、僕のファミリーに変えた。目立たぬ様、そのままのボスの名を語り姿を現さぬ様にして、部下に彼の所在を調べさせた。送り込んだ部下が帰って来ない度、彼の無事に胸が踊った。彼に死なれては困る。僕はまだ、あの視線を僕だけに向けさせていないのだから。

そして、今はボンゴレに身を寄せている、と知った。ボンゴレに対抗するにはそれなりの歴史があり、付け入る隙があり過ぎるファミリーがいい。それを3年かけて突き止めた。そこが、ジッリョネロファミリー。先代のボスが亡くなったことによりボスの座に就くこととなった、幼き姫。彼女に付け入るのは簡単なことだった。

そして今、彼は僕の目の前にいる。僕を睨み、恨み、厭うその眼が堪らない。あの大人たちに向けられた、どこか壊れた眼も僕の胸を高鳴らせた。けれど、この眼はどうして僕の嗜虐心をくすぐる。

ねぇ、愛されたい、なんて戯事は零さないし、望まない。だから、傍にいてその全てを頂戴。


【傍にいて】


(ひざまずいてキスを頂戴)
(僕はその時の歪んだ眼が見れたらそれでいいんだ。)



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