短編

□ちょっとした日の出来事
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窓に吹き付ける風の音で目を覚ます。


どうやらかなり浅い眠りについていたようだ。


目を閉じて
もう一度意識を手放そうとするのに、
そこまで強くもない風の音が
どうにも気になってしまって寝付けない。


昨日に引き続き今日もこの有様では、
私が枕が変わると眠れない質だというのは
間違いないのだろう。


そうはいっても
明日もまた朝早くからMV撮影があるのだから
休息をしっかりとって
万全の体調で臨まなければ…


そう思えば思うほど頭は冴えて眠りを妨げる。


――駄目だ。一旦外に出て夜風に当たろうか。


頭を冷やせば
また眠気がやってきてくれるかもしれない。


そう思って枕元の眼鏡を手探りで取り、
ベッドからを降りる。


隣で眠る2人を起こさないよう、
細心の注意を払いながらベランダの外に出た。








近くの椅子に腰をおろし、
ぼんやりと夜空を眺める。


心なしか…自宅から見る夜空よりも
星が良く見える気がした。


少しの間そうしていると、
背後から人の気配を感じた。



「絢?
 もしかして起こしちゃった?……ごめん。」


『んにゃ、べつにー?
 それよかさ、また眠れんの?』



こくりと私は頷く。


外に出てみたものの
眠気がやってくる気配はまだなかった。



ありゃまー…と絢が頭を掻きながら呟く。



『うちの家に泊まるときは
 そんなことないのにねー。」


「そう…。。
 ベッドが良くないのかなぁ…?
 ちょっと硬い気がするし。」


『それならさ、うちとベッドを交換してみる?
 そうすれば眠れるかも。』



成程、試してみる価値はありそうだ。
だが、そうすると
絢が寝心地の悪いベッドに行く事になる。


恋人にそんな負担をかける訳にはいかないだろう。



「交換じゃなくて、
 同じベッドで寝た方がいいかも…」



言い終わってから、
きょとんとした絢と目が合う。


しまった…


言葉足らずであらぬ誤解をされた気がする。


私の悪い癖だ。



「いやっ…
 別に、これは、、一緒に寝たいとか…
 そういうのじゃなくて……
 硬いベッドに
 恋人を行かせるわけにはいかないっていう…
 そういう考えであって……。」



ふふ、と絢が笑う。



絢の笑顔は好きだけど
なんだか子供扱いされている様で少し悔しい。



『わかってる。ありがと。
 飛鳥がそれでいいならそうしよっか。』



できるだけ静かにベランダの窓を開けて
二人でベッドに潜り込む。



こっちのベッドよりは少し柔らかいだろうか。



あまり違いはわからなかったけど、
隣に絢がいるのは
なんだか安心できた。


もっと側にいたくて身体を少し寄せる。


暑くて嫌がられるかな…と心配したのは
杞憂で、すぐに絢の腕が
背中に回されてあやすように撫でられた。


また子供扱いか…と思ったけど、
その体温はとても心地よかった。


じわりとした眠気が目の奥から頭の方へと
広がっていく。


先刻までの格闘が何だったのかと思える程、
私はすぐに夢の世界へと入っていった。



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