遠い空から見守って


□01 プロローグ
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それは、突然に言い渡された。

「もって後3年ね」

何が悲しくていきなり、死の宣告なんて。

もともと体が弱かったし、働く事も出来ずにいたけど、そっかぁ。

何か、複雑だ。

こんな事、兄貴には言えない。

絶対文句言うからな。

ほら、噂をすれば兄貴のご帰宅だ。

いつものように、何事もないように振る舞おう。

内容は風邪とでも言えば良い。

うん、良し。

「ただいまー」

ガラガラガラと昔ながらの戸が開いて、長身の男が入って来た。

「夢近ぁーいるかぁー?」

「うるせぇな」

奥から頭をボリボリ掻きながら欠伸混じりにイヤそうな顔で返事をした。

「人が食料調達してる時にぐうすか寝てるお前のほうがどうかしてる!大体な」

「あー分かったよ分かったよ早くお昼ご飯にしようぜ」

「おっじゃまー!」

明るい掛け声と共に一人の男性が入って来た。

「あれ?おまけ付き?」

「誰がおまけだ!」

「あはっ、春美いたのな」

その視線の先に夢近を確認すると。

「また寝てたのか、夢近」

「悪いかよ、寿彦」

「いや、悪くはないけど」

「で!何しに来たんだ寿彦」

春美がたまらず会話を遮ると。

「お昼まだ食べてないんだー」

「お前な、ここは食堂じゃないんだぞ!自分の家で食え」

すると、スコスコ肩を落とし寿彦が帰ろうとした時。

「待てよ寿彦」

「夢近ぁーありがとー」

「まだ何にも言ってないんだけど」

しれっと夢近が言うと。

「何だよーそこは、お前も食ってけ!じゃないのかよー!」

寿彦がブーブー文句を言った。

「あー!分かったよ!入れよ寿彦」

「やったぁ!春美」

春美が折れて寿彦が家の中へ入ってきた。

「ありがとな、夢近」

春美に聞こえない声で寿彦が夢近に言った。

「なーに、最初っから兄貴目当てだったんだろ?」

「夢近ぁー!」

耳まで赤くした寿彦が思わず叫んだ。

「あ?何か言ったか、夢近」

「べっつにぃー」

素知らぬフリをした夢近に首を傾げる春美だったが、構わず台所で食事の準備に取り掛かった。

「まだかなまだかなー!春美の、お昼ご飯まだかなー!」

「寿彦はホントにガキっぽいなー」

お箸で茶碗をチンチン鳴らす寿彦を見て夢近がさらっと言った。

「良いじゃん、春美の作るご飯美味しいんだもん」

「ご飯だけじゃなくて兄貴のゴハンも美味しいくせに」

また、春美との関係をイジられ、寿彦が赤くなった。

「出来たぞー!」

春美は素知らぬ顔で料理を運んで来た。

「いっただーきまーす!!」

寿彦が美味い美味いと料理を食べる。

「どうした、夢近?」

「兄貴の飯、ワンパターンだなーと思って」

「悪かったな、ワンパターンで」

ブスける春美を見て、寿彦がにこやかに笑った。

「ごちそーさまー!」

「また来るよー」

「二度と来るなー」

夢近の言葉にガビーンとなりながら寿彦が帰っていった。

「ところで夢近、今日陽子から電話なかったか?」

春美の言葉に一瞬ぴくっとなった夢近だったが。

「あったけど、ただの風邪だってさ」

「あっそ、心配した俺が馬鹿だったってワケだ」

「そーゆーこと!!」

すたすたと夢近が自室へと歩いていった。

「あーくそ!」

部屋に入り、1人悶絶する夢近だった。



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