遠い空から見守って


□02 ちょっぴり
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あっという間に陽は沈み、夜の足音が静かにやって来た。

いつの間にか眠っていた夢近は、辺りが暗くなったのを見て寝ぼけ眼で目覚めた。

「ふわぁぁぁ」

と、急に電気が付いて夢近が目をしぱしぱさせた。

「あー、兄貴おはよう」

「何を馬鹿な事言ってる!もう夜だ、阿呆」

「えー、だって寿彦が」

「寝ぼけてないで、さっさと歯磨きして来るんだ!」

「あーい」

ボリボリ頭を掻いて、夢近が洗面所へ向かった。

「くっそだりー」

鏡に映る自分を見て、思わずぷっと笑って吹き出した。

「はぁ、虚しいもんですねぇ」

やがて、歯磨きを終えた夢近が部屋へ戻って来た。

「何か観るものあったかな?」

DVDの入ったケースを適当にガシャガシャ触っているとノックの音が聞こえた。

「はいはい、開いてますよー」

呑気に返事をしていると、ドアの向こうで怒鳴る声が聞こえて来た。

「夢近!咲久間がバイクで事故ったらしい」

ドアを開けて春美が電話片手に慌てた表情で言った。

「マジかよ兄貴」

ガシャンとケースを落としかけて夢近が後ろを振り向いた。

「俺は病院へ行ってくるから、お前はちゃんと戸締まりして寝ろ、いいな!」

「俺も行きたいー!」

「何馬鹿な事言ってる!黙って言う事聞いて寝ろ、じゃな」

そう言うと、春美はバタンとドアを閉めた。

「ちえっ!」

夢近は仕方なくケースを元に戻してテレビを消した。

「兄貴の意地悪」

布団を敷いていると外で車のエンジン音が聞こえた。

「ホントに行きやがった」

ぶすけて枕を叩き落とし、夢近が乱暴に布団を被った。

そして、そのうち眠ったようだった。

「あっさー!」

何事も無かったように夢近が起きて隣部屋を覗くと、春美の姿は無かった。

「あれー兄貴のやつまだ帰ってねーのかよ」

一階へ降りると、厨房はしーんと静まり帰っていた。

「腹減ったぁ………」

「ただいまー」

丁度そこへ春美が帰って来た。

「兄貴ー!おせーよー!病院で何暇潰ししてんのさ」

「ばーか、誰が暇潰しなもんか見舞いだ見舞い」

そう言って春美が大袋を降ろして、厨房へ行った。

「朝飯まだだろ?作ってやるから待ってろ」

「はーい」

取り敢えずは飯にありつける、って事で夢近は詳しく聞こうとはしなかった。

「咲久間、大丈夫だった?」

「ああ、全治3ヶ月だってさ」

「ふーん」

食べながら頷く夢近に春美がコソッと耳元で言った。

「夢近ももう少ししたら連れてってやるからな」

「へーい」

本当は嬉しくて堪らない夢近だったが、ちょっぴり平然を装った。

ご飯が終わると、夢近は音楽を聴いて春美は食器を洗っていた。

「おじゃまー!!」

ガラガラガラーと戸を開けて寿彦が入って来た。

「出たな飯喰い虫!」

「人をイモムシみたいに言うなよ」

「あ、来てたのかケムシ」

夢近の本気過ぎる言葉に、衝撃を受けた寿彦だった。




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