遠い空から見守って


□04 溢れる感情
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それは雨が降り続く日曜日の午後の事。

「あー、雨かぁー」

「何て顔してるんだ夢近!さっさと洗って来い」

「洗って来い!」

キュピーンと目を光らせる寿彦に何で居るんだと思いながら夢近が洗面所へと向かった。

「おーい、夢近!何してる早くしないと食事無くなるぞー」

「食っちまうぞー」

「うーぃ」

食事が終わると春美は寿彦を連れて、車で出掛けていった。

「何もこんな雨の日に出掛ける事無いだろクソ兄貴」

夢近は留守番よりも痛い屈辱を受けた気持ちになった。

「何でもかんでも俺にやらせるくせして」

と、1人ぶつくさ言ってるとガラガラガラっと戸を開く音がして誰かが入ってきた。

「ん?兄貴か?」

夢近が玄関先の方を振り向いた。

「残念でしたぁ!アテが外れて悪いわね」

「何だよ陽子か」

「こらー呼び捨てにしろと誰が言った!」

また煩いのが来たとイヤそうな顔で夢近が正面に向き直った。

「兄貴ならいないぜー」

「あっそ」

むっつりと陽子が返事をした。

「まぁ、今日はあんたに用があって来たんだけどね」

「まぁた採血させろとか?」

陽子の表情を見ないで、夢近が耳をカキカキしながらフッと吹いた。

「当たり」

「だと思った」

よっこらしょと夢近が立ち上がると台所に向かった。

「お茶で良いかぁ?」

「あら、お構いなく」

しれっと陽子が荷物を置くと、中からノートパソコンを出した。

「んーと、この間の結果があ」

「なあ陽子、俺ホントに」

「あーっ!!」

いきなりの陽子の絶叫に思わずビクッとなった夢近だった。

「いきなり何だよ!?」

「ちょっと、あんたまた太った!?」

「な、何だよ?マズイのかよ?」

データを見ながら陽子がズイッとノートパソコンを夢近の方に向けた。

「これが去年、これが今年!ま、良いから早く横になりなさい」

「ちえっ!」

大人しく横になると、太い針がブスッと夢近の腕に刺さった。

「いった!」

「我慢なさい!男でしょ!」

ピーと音がして針が夢近から抜けた。

「はい、腕を曲げてここしっかり押さえていて!終わりよ」

「陽子はぜってー俺に恨みぶつけてるよな」

夢近の悪態にも負けないくらいべーっと舌を出して陽子が検査キットを直した。

「お邪魔致しましたぁ」

わざとらしく帰る陽子と入れ違いにガラガラガラと戸が開いた。

「おう、陽子相変わらずキレイだな」

「あら、煽てても何も出なくてよ」

春美が帰って来たのを見てオホホと笑う陽子だった。

「またねん」

フリフリと夢近に視線を向けて手を振って陽子は帰っていった。

「兄貴ー!」

「分かった分かった、すぐご飯にするから」

そして、夜。

「寂しかったんだからなー!ずっとずっとずっと」

「今日はやけに感情が溢れてるな」

「あっ!またガチで噛みやがったなあ!」

夢近の感情がその後も爆発したのは、言うまでもない。

「うおー!!」

長い夜は延々と続いて行くのだった。




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