姫と海賊

□4話
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「もう起きていたのか…ちょっと顔を見せてみろ」

『触らないで!』


キラーが姫の頬に触れると昨日までの傷跡が薄くなっているのに気づく。
加減をしているとはいえキッドに殴られた傷がこんなに早く癒えるはずはない。


「何をした。嘘は許さない」

『私の国でしか作れない薬を使っただけよ。もう残ってないわ』


小さな小瓶は姫が連れ去られる寸前に王妃が手渡したものだった。
キラーは納得したのかそれ以上は追求してこなかった。


今日も残りの掃除をしながら海を眺める。
普段は遠くから見ていたのに今ではこんなに近くに…


いっそ飛び込もうかしら


そんな自虐的なことを考えていると少し焦った様子でキラーが姫の腕を掴んだ。


「何をしている!危ないぞ」


自分より大きな仮面の男が自分を心配している。それが何故かおかしくて自然と笑ってしまっていた。


「お前が覗き込んでいるから自害でもするつもりかと」

『それも一瞬考えたけど、海が綺麗から見ていただけ。心配してくれたの?』

「お前が勝手に死ぬとキッドが暴れる。そうなると厄介なだけだ」

『なるほど、じゃあいつでも死ねるわ』

「お前は笑うと美しい顔をしているな」


突然のセリフに顔が熱くなる
それを誤魔化すようにバケツを持ち掃除を再開した。



※※※


「あの奴隷に部屋を与えろだァ?キラーどうかしちまったのか」

「どうせ降ろすつもりも殺すつもりもないんだろ。なら部屋を与えて問題ないんじゃないのか」

「部屋を与えられた奴隷なんて聞いたことがねェ。だが小汚ねェままなのは困るな」


姫はキッドの部屋に呼ばれた


「この部屋の隅でお前を飼ってやることにした。恩に着ろよ」

『この部屋にいるくらいなら地下牢の方がマシです』

「なんだと?」


せっかくのキラーの行為も虚しく姫はいつも通り拒絶し殴られても首を縦には振らなかった。


「このクソ女…殺してやるッ!」

『ぐっ……ッ…!』


首を絞められ足が浮くほどに持ち上げられ息ができない。キラーが止めようとするのをキッドは許さず腕に力が込められていく。

もう限界だと思われたところで手を離され一気に酸素が駆け巡る。


「何故お前はそこまで俺に逆らう。大人しくしていればもう少しマシな扱いにしてやったのに」

『私が従ったのは国の皆んなのため。あとはどうなろうと構わないわ』


まともに息が出来ず咳き込みながらもその目は死んでいなかった。


「チッ、興醒めだ。その女地下牢に戻しとけ」


キラーに手を借りながら立ち上がりキッドの部屋を出た。地下牢に戻ろうとするとキラーに腕を引かれた。


「俺の部屋だ。シャワーを使うといい」


断りたかったが何日も入っておらず小汚い姿に自分もうんざりしていた。

温かいお湯とともに涙が溢れる
気丈に振る舞いながらも心の中は不安と恐怖でいっぱいだった。


浴室を出るとバスタオルと大きなシャツが置かれていた。バスタオルを体に巻きキラーに声をかけてみる。


『私の服はどうしたんですか』

「替えは置いてある。お前の服は洗ったから乾くまでそれを着ていろ」


仕方なく着ると大きくてワンピースのようになった。部屋を出ると丁寧にドレスが干されていた。


「汚れは落ちなかったが少しはマシだろう。明日キッドが来る前に届けるから着替えたらいい」

『…ありがとう』


キラーだけは信用してもいいんだろうか?
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