姫と海賊
□12話
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あれからもキッドとの関係性は特に変わらない。無理矢理抱かれて時には殴られて、同じベッドで寝たり鎖に繋がれたり。
海に飛び込むことのないようにキラーの監視が追加されたぐらいだ。
そんなある日海はとても穏やかでクルーたちもどこかダラけている感じだった。
「次の島まであとどれくらいだ?」
「このまま突っ切れば2、3日で着きますよ」
そんな会話が聞こえてきたとき姫はハッとして叫んだ。
『このままではダメ!すぐに進路を南に変えて!』
普段口を聞かない姫の声に船内はざわついた。
『早く、嵐がくる!』
「こんなに穏やかなのに何言ってやがる!頭でも打ったか?」
みんなのバカにする笑いも気にせず姫は叫ぶ。
『いいから早く!もう時間がないの!』
「何の騒ぎだ?」
キッドが現れみんなが口々に姫を頭のおかしいヤツだと罵った。
「航海士の私が問題ないと言ってるんです。南に回ると遠回りになりますよ」
時間は少しでも惜しい
当たり前だが誰も奴隷の言うことを聞こうとはしない。
『キャプテンキッド!このままじゃ全員死ぬわよ!早く進路を南に変えて!』
初めて姫が自分の名を呼んだ。
いつも空虚な瞳は自分だけを見つめ必死で訴えかけている。
心臓が痛い、何だこれは
「進路を南に変えろ!」
「お頭、奴隷のいうこと聞くんですか!?」
「俺の命令だ。黙って従え」
全員で一斉に航路を変え
数分後には嵐に加え大きな竜巻が海を襲う。あのまま進んでいたら間違いなく海の藻屑だっただろう。
「おい、何故嵐がくることがわかった」
『…鳥が騒いでた。それにイヤな予感がしたから』
昔から嫌な勘はよく当たる
「お前があのまま黙ってりゃ俺を殺せたのにな」
『ホントだね』
「…ッ!」
ふいに見せた姫の笑顔にまた心臓が痛くなる。
キラーとしか話さず名前も呼ばなかった女が自分に笑いかけた。
「姫お前は今日から奴隷じゃない。俺の女だ」
『お断りよ』
温かい気持ちは一瞬で怒りに変わった。