俺のお兄ちゃんは、やさしすぎる。


「じゃーん、プリンアイスだよっ!」
「わっ、カイト兄ちゃん…大好きっ!」
「ネギアイスは…?」
「あるよっ安心して、ミク〜」

満面で嬉しそうに笑っているお兄ちゃんは、皆にアイスをわけながらマスターにアイスを何個食べていいかと年長組とは思えないくらいに瞳をきらきらお菓子をもらった幼稚園児みたいに輝かせて、縋り付いていた。
マスターといえばはいはいとカイト兄ちゃんを引き離しながら溜め息を吐いて指を二本立てている。
俺はマスターの見ていないるんるん気分でビニールを漁るお兄ちゃんの手元を目で追ってから、苦笑い浮かべてマスターの肩を叩いた。

「マスター、二個はやばいです」
「え?なんで…」
「バケツ」
「は?バケ……げっ!」

台詞に次いでから指差したその先を追うマスター。
と、そこでバケツ二つを前に手を合わせたお兄ちゃんに気付いたらしく、嫌な悲鳴上げてがばりと飛び付いて止めに行く。

「お腹壊すだろ…っ!」
「やっ、やぁ…あぅううう!マスター意地悪!いいって言ったのにぃいいっ!」

急に来たマスターにはじめはアイスしか見えなくて気付かなかったらしく、ばたばたと騒ぐ(やはり年長組とは思えない)お兄ちゃん。
それを羽交い締めにして止めるマスターを見ていて皆は嬉しそうに笑っていて、ミク姉もメイコ姉もリンも、ただほほえましそうに笑っていて、しかも途中でマスターは涙目でぐずり始めたお兄ちゃんの頭を撫でて宥め始めた。

ああ、そんな時自分が嫌いになる。

仲良さそうにしているその二人を見て、悲しそうなお兄ちゃんを苦笑いながらに幸せそうにしているマスターを見て、胸が苦しくなって酷く嫌になる。
しばらくしてから涙を溜めた瞳でマスターを見て、いつもいつもお願いと、首に腕を回して強く抱き着くのだ。
でも、それだけはどうしとも許すことができないからとカイト兄ちゃんの涙を唇で拭って、優しく、心から愛しそうに背を抱いて撫でてあげるのである。

それを見ていれば、マスターがお兄ちゃんのことを好きなことぐらい、わかる。
カイト兄ちゃんがマスターに甘えるのが好きなことぐらい、わかる。

だから、だからこそマスターを、消してしまいたいたくなる。

それどころかお兄ちゃんさえ、消して、しまいたくなってきて、手が震えて、お兄ちゃんを独り占めしたくなって、苦しくて、どうしようもなくなって、伸ばしすぎた長い爪が行き場無く掌に刺さって、皮が、肉が、なのに痛くないからどんどんそれが埋まって、



「っ……レン!」



びくうと身体が、跳ねた。
がたんと何かが倒れるような音がしてから、カイト兄ちゃんの泣きそうな声に混じった酷く苦しそうなそれが耳に入ってきた。
それがやっと、遅れながらにわかる。
走って近寄ってきた相手の手が俺の手を掴んできたのも、感覚のまだ戻らない身体で気付いた。
額から冷や汗が、滴る。

「レン、…傷が、血…血が、っ」

嘆きながらしゃがみ込む相手を見れば、はっとして手を見た。
爪の突き刺さったそこからだらだらと血が流れ出ていてびっくりして慌てて手を逃がそうとするのに、お兄ちゃんは首を横にぶんぶん振って手を強く握ってきた。

「だめ、だめだよ…」
「兄、ちゃ、」
「ばか…っ傷なんて、だめ…なの」

アイスでさえそこまではしないくせにぼろぼろと泣き出すから、また心臓が苦しくなって、違う痛みに見舞われる。
ああ、そんな顔しないで。
俺は貴方を殺したいと思ったのに。
貴方の愛しい人を、殺したいと思ったのに。

いつもいつも、この涙にまた病む。
こんな俺を愛してくれる大好きで堪らないこの人に、気持ちを押さえ付けられる。




I hate you.
I am really hated.
Because I love you.

I come to want to
confine you occasionally.
Want to erase you.
However, because you are too gentle …

(いつまでも)(やさしすぎるそんな貴方だから)(俺の恋は苦しく沈み)(浮かべずもがくだけなのです)



---------------
2008.7.21.

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ