そんな瞳は反則だ。
きっと犬にしっぽがついてたらかなりの勢いでふってる。でもチワワとかそういう感じじゃなくてどちらかというともうちょっと大きい感じみたいな。 
なのに元からしょうがないくらい人懐っこいからかわい、すぎる。

「マスター、歌わせて下さいっ!」

アイスを欲しいときも同じような目をしてねだった。
そんな時にアイスをあげないと、きゅんきゅん本当にそれこそ犬みたいに鳴いてこちらにすりすり必死にねだってくる。
俺がいつまでも許してくれないとどうしても食べたいらしくミクに言って、でもミクもしっかりもうお姉さんだから駄目ですってお兄ちゃんの身体を心配する。その次には断れなくておどおどしちゃうレンとかリンにお願いしに行って、困ったように二人に駄目だって言われてるのにまだねだるからメイコに怒られて。

「…マスター?」

そう、まさにこんな感じで。
しゅんとへこみつつじっとこちらを見つめてきてねだっているというより、半分諦めて落ち込むんだ。
もし犬だったら耳を垂らしてうなだれているんだろうなぁ…。

「マスター…」
「いいよ、何にしよっか」
「え!?えーっと、えっと、っ」
「じゃあアイスがメルトした曲」
「ぎゃあ!なっ、泣きますよ!?」
「あ〜溶けちゃった〜飲むしかない〜」
「なんですかそれ…」
「月光の第一楽章」
「うっ…嘘だ!」

涙目で反論してくる相手が可愛くてけらけら笑ってからかってやれば、ぶーぶー口を尖らせて腕に抱き着いてくる。
じゃあ弾いてやるよとピアノまで相手を引きずり、蓋を開いてから椅子に座り、簡単にメロディに嘘の歌詞を付けてから楽譜を渡して相手を横に座らせる。
さっきまで怒っていたくせに伴奏があれば微かにでも歌えるのが嬉しいのかぱちぱち拍手する様をみていればもう、ころころ代わるその態度が忠犬みたいでたまらないえへ、へ…ってあれ、なんか俺変態みたいな喋り方になってない?
とりあえず前奏を弾きはじめる。
クールだ、クールになれ俺。

「あ、あいす〜溶けたら〜マスターが、取り上げにくるんだぁ〜…」

わけわからない歌に必死になって歌うカイトをちらりと見ながら、ピアノのメロディを相手に合わせて弾きはじめた。
と、そんなところでガチャリと玄関が開く音がしてから、ぞろぞろとピアノのあるこのリビングに他みんなが帰って来る。

「うっ…話反らさないでよぉメイコお姉ちゃん…っ」
「今日はカレーよ。マスターの好きなカレー…でも茄子入りだから」
「そうッ!メイコ姉、ちゃんとマスターにもお話するッス!」
「諦めなよリン…マスターも同じこと言うと思うよ…?」

メイコの台詞には喜び悲しむべき場所があったのは、まあ置いといて、他の皆が言っている何かが気になる。
どうしたのかと聞こうと思って、俺のただいまを待って目の前でじっとしているところに近寄ろうとピアノを止めて立ち上がった、と、掴まれる動かそうとした足。
…あ、あぁ、忘れてた。

「マスター……」

恨めしそうに低い声でこちらを睨んでくるカイトに、さすがに顔が引き攣った。

「うわっ!ごめんって、…カレーに目がくらんで…」
「まだアイス返してもらう歌詞までいってないのに…!今日は一日俺にむらむら過ごせっていうんですかぁ!?」

それはそれで楽しそうだけど。
って…違った。違う違う。

「だって…まぁ、しょうがないだろ。それより俺にお願いでもあるの?」

さらりと流して話をメイコ達に向けて進めた俺をガーンとわかりやすいショックを受けた顔をして見れば、その場に崩れ落ちた後に涙目で脚に纏わり付いていやいやと縋ってくる。
それをミクとリンは気にする様子も無く(なんかそれはそれでカイトが可哀相だけど)両拳を握って迫ってくる。
そして、瞳をアイスを目の前にして輝かせるカイトみたいに必死な顔で首を傾げてかわいらしくおねだりしてきた。



「「犬が、飼いたいの…っ!」」



フリーズ。
レンとメイコを見れば、溜め息を吐いて、俺の足元を横目で見ている。

「もう困ったのが一匹いるのに…」

先程の二人の会話を思い出しつつ足元を見れば、その視線に気付かずにきゅんきゅん縋っているカイトに、俺は苦笑いするしかなかった。

(メイコとレンとは、このわんこをどうにゃんこにしようか近いうちによく話そう)




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2008.7.21.

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