「歌えな、い…」

苦しそうに喉から搾り出されたお兄ちゃんの声はどこか掠れていて、泣きそうに歪まれた瞳を見ていたら可哀相になって、こちらまで苦しく…、
と、言ってあげたいところだが。

「あぁもう…今回は許さないよ。自業自得なんだからねカイ兄!」

マスターを早く呼んできて、と、その泣きそうな瞳でまだこちらを見つめてくるものの…とりあえず今日は厳しくしなきゃ。





り、雨?




マスターがマフラーを巻いたままのマスターの寝巻な風呂場からうじうじ動かないカイト兄ちゃんを無理矢理担いで運んで、ベットに寝かせる。
昼間っから眠るのをいやぁと駄々をこねる子供みたいに騒ぐ兄ちゃんの声は枯れていて、それを聞いてはあと深く溜め息を吐いたマスターは、寝なきゃ駄目だと眉をしかめデコピンをした。

「アイスの食べ過ぎ」
「違います…ちゃんとうがいしなかったからです…っ」
「兄ちゃん、白状しなよ…昨日何個アイス食べたの?俺見てたよ?」

うぅっと唸った声が聞こえてから嘘を吐いても無駄だと思ったらしく、俺達から顔を反らして顔を見ないようにしつつ唇を尖らせて薄く開いた。

「な、ななこ……」

それを聞いたマスターがさらに深い溜め息を吐いて、頭を片手で抱える。
暫く考えるように腕を組んで本気で呆れていたらしいものの、立直り顔を上げてからちょっと待ってろと俺に言って、どっかに行ったと思ったらばさばさっと激しい音を台所から立てた後に、すぐ帰ってくる。
帰ってきた時はずいぶん機嫌悪そうな顔をしていたけれど、ちらりと俺の顔を見てからにっこり満面の笑みを作って、兄ちゃんへとその笑みを向ければ風邪がうつるのが嫌なのか(意外とマスターも薄情な男である)近寄りはせず扉の所で指を立ててさらりと、言った。

「カイト」
「は、はい?」
「アイス、全部捨てたから」
「み、っぎゃぁあああああ、!!!!」

悲鳴、だったと思う。
それはそれは喉への負担は大変なもので。
あーぁ。人生終了のお知らせです。

「あれ、あ…でもレンとリンが喜んでたからプリンアイスはとっといてあるよ」
「ありがとうございますー」

とりあえずカイト兄ちゃんのぐずりを聞かないようにしてにぱーと笑めば、マスターは幸せそうに俺の頭を撫でてくれた。
これを見てわかると思うがどうやらいつまはカイト兄ちゃんにもみんなと一緒で甘いはずの今日のマスターだからわかるのだが、かなり怒っているらしい。
兄ちゃんにとってアイスが無くなるということがどんなことか、マスターは嫌になるくらいわかってると思うから。
そんなアイスを捨てて食べれなくした揚句俺のぶんは取ってあるとは…あれ、多分ころマスター、俺のこともためしてるんだよなあ…やだなあ、面倒臭い。

「カイト」
「は、はい…」
「俺バイト行ってくる」
「……、はい」

完全なる放置プレイだった。
うん、かっこいいよ、マスター。
と、去り際に「お兄ちゃんの風邪を酷くせずに機嫌をよくするにはどうすればいいでしょう」とウインクをしてくる、ああもう、かっこいいよ、マスター。

でも、こんなの大きなお世話です。

だからと言って、こんなチャンスを放っておけるほど俺は男の子じゃ無いことはなくて、結局はマスターの思う壷か…。



(しょうがないから、俺のプリンアイス…食べさせてあげるよ、お兄ちゃん。)



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