(しんぞうが、こわれちゃう)

上に押し乗って掛かってくる相手の頭を優しく撫でて、もう切れてしまった理性をもう少し押さえるために無理矢理苦笑いを漏らし相手を落ち着けようとする。
なのにそそるように撫でられれば幸せそうに喉をそらして子猫みたいにひくんと身体を小さく跳ねさせるのが、可愛い。
そのままこちらに相手を引き倒した。
強く抱きしめて、逃げられないように抱きしめて、唇をもう一度合わせようと、

「たっだいまー!」



その時に部屋に響いた、ばたーんという激しく扉が開かれた音。
楽しそうで嬉しそうな琥珀と焦げ茶色のグラデーションで構成されている綺麗な瞳、それと類似した綺麗な髪を靡かせてにっこりと笑んだ、

マスター。

「いやぁ、なんだか仕事の電話だと思ったら呼び出されただけでさ…もう終わっちゃった!ラッキー、あはははは」

わざとらしくけらけらと笑っているマスターは、こちらに気付いているくせに何も無いかのようにへらりとした表情でご丁寧に説明をしてくださる。
でも、このあまりに高すぎるテンションを見てみればわかるが多分、いや確実にわざとなのはまるわかりである。
そんなことを思っているこちらをやはり気にもしない様子で、満面の笑みを面に構えたままベッドと少し離れた場所に胡座でしゃがみ込み、あまりに相手に似合わないようなやさしい優しい声音で、呟く。

「ほら、続けて」
「マスター、さいていです…」

つい漏れた言葉に、また軽い跳ねるような笑いをするマスター。

「なんでだよー…いいだろ?」
「良くねえ」

ついタメ口。

「これが本物の百合だな」
「俺は受じゃないですから!」
「は、ははは!お前可愛いねえ…」
「かわいくなんてない…っ」
「俺の可愛い可愛いカイトとレンがいちゃいちゃしてるなんて、最高じゃん。マスタームラムラしちゃーう!」
「な、ば、も…っ、マスターなんてだいきらいですっ!」

全く嫌なくらい口の回る男である。
それに順応できる自分も相当嫌なやつだと思うのに、マスターは楽しそうに笑うばかりで、騒がしいと思った時点でお兄ちゃんを思い出し、がばりと顔を見る。

「…、めーちゃ……」

寝ていた。

「…カイ兄…」
「ん、…う、ぁ……」

妙に甘えたな声を出して寝相なのかこちらに絡まってくるお兄ちゃん。
しょうがないから抱きしめ返してあげよう(というか抱きしめたいだけだけど)とするのに、マスターからの視線が痛くて一度離した手さえ差し延べられない。

「ほら、レン」
「マスターは黙っててください」
「俺もレンとらぶらぶしたいなあ…三人でにゃんにゃんしようか」
「うるさいです」
「レンも兄ちゃん可愛くてムラムラ?」
「うるさいです」
「俺のかっこよさにムラムラ?」
「っ、ナルシストは、嫌いです!」

顔面が熱くて耳まで熱くて、あまりにずくずくと神経がおかしくなりそうだったから、ああ俺今顔赤いやと妙に冷静に感じた。
カイト兄ちゃんがはやく起きてくれないと、楽しくなっちゃったマスターの日々の標的が、俺になっちゃう…!

そんな俺のことなんか知らず寝ているお兄ちゃん。
にやにやと笑んでいる楽しそうにやらしいマスター。
隣で聞き耳立ててる意地悪なお姉ちゃん二人に何も考えてないリン。

「もうやだ………」
「にゃんにゃんする?」
「二人でにゃんにゃんしましょうか」

マスターが出掛けたのさえマスターに遊ばれていたとやっと気付いた俺は、流されて生きるのが楽だと学んだ。



(でもお兄ちゃんはだけ渡しません!)
 



end

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