親政BSR

□落ちる(完)
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部下達は宴会の準備の為にそれぞれに散っていった。

俺はというと−・・・また大人しく釣り竿を垂らしていた。
しかし釣りを楽しむ為じゃぁない。


「・・・暢気なモンだ。」

天気も海も−・・・この竜も。

釣り糸の先は、浮き輪に引っ掛けてある。

疲れて寝ちまったコイツが波に流されないように。


「俺も、似たようなもんか。」

大人しく子守をしている自分なんぞ今まで想像した事もなかったが、これはこれで楽しいもんだと思った。





※※※※

−・・・暗ぇ
目だけで周囲を見回すと、そこは先程までの海の上ではなく、真っ暗な広い部屋の中だった。
月明かりでぼんやりとは部屋の様子は解るが、自分が闇に溶けて見えなかった。
それに恐れは−・・・感じない。

恐くは、ない。


「−・・・起きたのか?」
スッ−・・・と襖が開いた。
真っ先に目についたのは、銀色に光る何か。
月に濡れて・・・風に揺れている。
それを触ってみたくて、無意識に伸ばした手を目ざとく捕まれた。
「ったく、一人で起きれるだろ?」
そう言いながらも優しく引っ張られた。
「アンタの為に宴会を開いた。・・・酒は飲めンのかぃ?竜ッてのは。」
「ha、聞く方が野暮ッてもんだぜ?」
俺は挑発的にそう言った。すると長曾我部元親はクスリと笑った。
「そりゃ悪かったな。さ、行こうぜ?」
手を引かれ、俺は引っ張れる様に歩きだした。

チラリと鬼の顔を見ると、何処か楽しそうに笑っている。
そして−・・・繋がれた手を見た。


手−・・・なんて、繋がれた事など無かった。
「・・・温ぇ。」
呟いた言葉は聞こえなかったのか、ズンズンと引っ張って何処かへ連れて行く。

それもいいか、と思った。
いつも前だけ見ろと言われ、前しか見えないと突っ走ってきて、引き連れてきた。
誰にも負けるなと、弱みを見せるなと言われてきて、誰にでも挑んで、挑発してきた。


目の前には誰も居なかった。
守るものだけが後ろに沢山いた。


でも今は・・・


「ほらよ、着いたぜ?」
「ッ−・・・」
いきなり開かれた襖からは明るい光が部屋中に照っていた。
その光に瞳を細める。
「さ、楽しく飲もうや独眼竜♪」
隣には今日知り合ったばかりの男が人懐っこそうに嬉しげに笑っている。
目の前には、まだ話した事もないが、楽しそうに俺を迎えようとしている男たちがいた。

今だけは−・・・
この温かさの中に埋まっていたい。

あの血濡れた戦場をかけ離れた、ただただ明るい世界。

恐かった−・・・全てが。



「おいおぃ、なぁ〜に眠たそうにしてんだよ?ほら、入るぜ?」
急かされ、押し込まれるように部屋に入った。


今だけ、今だけ−・・・。





※※※※
「ぉい、独眼竜?」
部下達が交互に来てはコイツに酒を注いでいった。
それを軽がると飲み干し、全く酔った気配すら見せなかったコイツだが、−・・・やはりかなりきつかった様だ。


部下も全滅し、俺達は他愛もない会話をしつつチマチマと二人で飲んでいた。
相変わらずの口調に、相変わらずの態度は、酔った様子などなく、コイツもザルかと思っていた矢先、独眼竜は足を組み替えようとした際に、体勢を崩し俺に倒れてきた。
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