乱世

□領主
1ページ/2ページ

政宗が城から居なくなり、一週間が過ぎた。

「元親殿、本当に申し訳ござらんッ!!!」
「―・・・ごめん、鬼の旦那・・・。」

客間に着くと、開口一番に幸村が土下座をしてそう言い、続いて佐助も俺に謝りを述べる。

この光景ももう一週間目だ。








―・・・

あの日、佐助が居なくなった後、俺は当たり前のように政宗を探した。

飼い主が気まぐれな飼い猫を呼ぶように、少し呆れながら・・・。

きっとヤキモチ屋のアイツは、また猫と一緒に鯉で遊んでいるに違いないと思っていたから。

『政宗ー。・・・まーさむねー?』

ひょこんと覗いた其処には政宗の姿はなく、池の水面だけがゆらゆらと揺れていた。

猫が空を見上げ、みゃぁと鳴く―・・・。


『―・・・政宗?』

不安、否―・・・焦燥感がふわりと風と共に気味悪く俺を包む。
自然に握り締めていた手にはジワジワと熱が籠り嫌な湿り気を纏い始めた。


政宗の居ない景色を振り払うように足早に政宗の部屋に向かった。

『政宗ッ!!!』

俺の部屋へ・・・

『っ、政宗!!!』

鍛錬場へ・・・

『ッ―・・・政宗』

厨房へ・・・

『政宗?』

宴会場へ・・・

『―・・・政宗・・・?』


城の中は、政宗の居ない空っぽの籠の中だった。

『・・・勝手にっ、出て行きやがって・・・、連れ・・・ッ、戻してくるっ!!!』

城中を駆け巡り、汗だくの俺は部下にそう言うと、武器を片手に外に出ようとした、正にその時―・・・

幸村と佐助が青い顔をして俺の前に通された。

『悪ぃが今立て込んでンだ。話なら別の日にしてくんねぇか?』

二人の様子は明らかに異常だったが、そんな事よりも俺には政宗が大切で、通り過ぎようとした。

『ま、待って下され!!!―・・・その政宗殿の事でッ・・・』
『あン・・・そういや―・・・』


そうだ、おかしい。
幸村は流行病にかかっているはず。
だが目の前の幸村はどう見ても健康そのものである。


そして政宗の居ない現実―・・・

俺は息を呑んだ。

『―・・・まさかテメェ、政宗を無理矢理連れてったのか!!!どうなんだ、アン?!』

佐助の服を掴み、睨み上げる。

『む、無理矢理ではないよ!!!―・・・ただ・・・』
『ただ、何だ。』

佐助は俺から視線を外した。

『―・・・鬼の旦那が君を使えって言ってたって言ったら、あっさり―・・・。』
『俺が―・・・。』

自然と佐助を握っていた手から力が抜け落ちた。

つまり政宗は、俺の命令だと勘違いしている、という事になる。

『―・・・政宗は信じたのか?』
『た、ぶん・・・』
『た、ぶん・・・』
『はははっ・・・、参ったな・・・』

あんなに力を使うなと言っている俺が、そんな事言う訳もない!!!
あんなに毎日可愛がってるのにッ、何でそんな嘘っぱちを信じまッたンだよ政宗・・・

だがそれは政宗を連れて帰れば問題ない。

とにかく今、直ぐに逢いたい。

そして、強く抱きしめて、勝手に出て行ったのを叱って、口付けて、目一杯・・・迷わない様に抱いてやる。

『政宗の所に早く連れてけ・・・。』

『それが・・・』
『―・・・某達が目を離した隙に・・・居なくなられて・・・』
『旦那ッ―』
『政宗が―・・・居ない、だと?』

俺は幸村の胸ぐらを掴み引き寄せた。

『具合の悪い政宗から目を離したのか?!何でそんな事した!!!』
『―・・・すまぬ、許して貰おう等とは思ってもいないが・・・、某達に出来る事はただ政宗殿を探す事のみ。・・・今は、そちらを優先させるべき所。』
『―・・・ッチ・・・』

確かに政宗を探す事が一番だ。
こんな所に留まっていても仕方ない。


それに―・・・
一番の原因は、結局の所俺にある。

『―・・・悪ぃ、八つ当たりした・・・。一緒に探してくれ、お前等。』
『かたじけない、心中・・・察する。』


『―・・・探してくる。』

二人を抜き去り、俺は城下に急ぎ向かった。




―・・・
それから、一週間・・・
部下も殆ど寝る事もせず、探し通し。

部下の疲労も限界にきていた。


「―・・・頭を下げてくれ、悪いのは俺だ。・・・政宗をもっと可愛がれば、信用をもっと得られれば・・・こんな事にはならなかった。」
「元親殿・・・」

探せど探せど、政宗の居ない光景ばかり―・・・

政宗の姿を追って、重い足を引きずり回し、心は削れ、もう考える事も、政宗の事も、夢幻だった様にさえ思えてくる。

俺は二人を連れ、部下の集まる広間に向かった。


「―・・・野郎共、政宗の事だが・・・。疲労の色も濃い、・・・この辺で目処をつけようと思う。」
「元親殿?!」
「何言ってンですかアニキ!!!」
「俺等まだいけますぜ?!」

わぁわぁと部下達の騒ぐ声が部屋中に満ちる。

本当に部下の気持ちは有難い。
だがこれ以上、私情で部下を動かせば政務に影響を及ぼす。

切り捨てる時に―・・・

切り捨てなければならない、俺の背負っているものは国だ。

―・・・決して、政宗だけではない。
国と政宗、どちらを選べと言われれば、選択肢は俺にはない。



「―・・・政宗を諦めた訳じゃねぇ。・・・だが、このままは進めねぇ。」

俺の言葉に全員が押し黙る。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ