乱世

□友
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俺が皆に政宗捜索の打ち切りを伝えると、辺りからはすすり泣くような声や、涙を堪えるような声が静かに広がる。

「オイ、お前等が泣いてどうする!!!・・・政宗からもらったモンを忘れるな、そしたら心はいつでも側に居れる。・・・違うか?」
「ッ―アニキ・・・」
「ぅうッ、俺等はずっと忘れやしませんっ・・・」


忘れる事なんか出来ない。

あの肌、声、吐息、体温・・・

あの存在にどうしようもなく惹かれた。
気付けば深く堕ち、ドツボにはまってしまったのは俺の方。

本当は政宗無しで、生きて行けるのか不安で仕方ない。
きっとこの先、政宗の影を追って、政宗似の奴に恋をするかもしれない。

だが絶対に愛せない自信がある。
ただ政宗似のそれを抱いて、気分を紛らわせたいだけなんだ、俺は。

どんなに政宗に似ていても、所詮、政宗の偽物。

愛せる筈がない。

それでもきっと誰か抱かないと自我は保てそうもない。

政宗

政宗

まさむね・・・

俺はただ、お前だけを愛している。
「アニキィ!!!」

ガタガタッ―!!!
と広間の襖が開くと、門兵の一人が息も切々にやって来た。

「姉御が、政宗さんがっ・・・帰ってきやした!!!」
「政宗が?!」

政宗が帰ってきた!!!
政宗がッ―・・・帰ッてきた!!!


俺は夢中で門に向かって駆け出していた。

政宗がッ
政宗が帰ってきた!!!

まさむねっ、まさむねッ―


「政宗ぇー!!!」

門を蹴破らん勢いで開いた。

―・・・政宗ッ!!!


「やっほ〜、元親!!!」
「―・・・慶・・・次?」

政宗の居る筈の所に居たのは友人の前田慶次だった。

「・・・政宗、は・・・何処だ慶次・・・」

何だ?
嫌に胸騒ぎがする―・・・

政宗は何処だ?
政宗はッ―・・・

「―・・・此処に居るよ?」
「・・・もと、ちか・・・」


慶次の後ろに隠れて、怯える子供のように小さく姿を表した。
その服を掴む政宗の手は慶次を決して離さないと言わんばかりに握り締められている。


酷く、気持ちが悪い―・・・
吐き気がする。

「―・・・ま、さむね?」

手を伸ばせば、ビクッと震える政宗の躰。



―・・・俺が何をした?


「政宗、こっち来い。」

言葉に力が籠る。

「政宗、早く―」
「俺さぁ、政宗もらっていい?」


「―・・・は?」


何だって?
「政宗、俺に頂戴?」
「ふざけんなッ!!!」

俺は武器を振り上げ、地面に振り下ろした。

―・・・地面には、深く溝が刻まれ、土を舞わせる。

もくもくと二人の姿を隠すし、埃っぽく、不愉快だ。



「―・・・政宗は俺のだ。」

俺が何をした?
ただ政宗を愛していただけだ。
慈しみ、愛して、その全てを受け入れた。

政宗の過去なんてどうでもいい、今を愛した。



それなのにどうだ。
皆、俺から政宗を奪っていく。
俺が何をした?
何で政宗を奪われなくちゃならねぇ?

何で―・・・

政宗に怯えられなきゃならねぇんだ!!!


俺が―・・・ッ

「俺が何をしたンだよ政宗答えろ!!!」
「も―・・・ッち、か・・・」
「どうすればお前に信用される?!俺はお前に酷い扱いをしたか?!嘘を吐いたかよッ―・・・、何で・・・」

何で・・・

「―・・・ただ愛してただけだろ?」

崩れるように、俺は地べたに崩れ堕ちた。

ポタポタと、いつからか流していない涙が堕ちた底の土を濡らしていく。



「愛し・・・て?」

ジリッ、と砂利の音に顔を上げた瞬間、政宗が俺に飛び込んできた。

ふわっ―・・・と香る確かな政宗の香り。




「まさ・・・む、ね?」
「ごめんなさいごめんなさいッ―・・・、俺っ元親の一番じゃなきゃ嫌でッ・・・ヒクッ・・・勝手に出てって・・・ック・・・、でも寂しくて辛くてっ・・・元親にずっとずっと逢いたかったッ・・・、逢いたかったちかぁ・・・///」
「―・・・っばかむね・・・」

ギュゥっと抱きしめた躰はいつもの体温、感触、香り・・・

どれも酷く懐かしい。

たった一週間だというのに、こんなにも俺を狂わせた―・・・。

「だから俺、元親の一番になるって決めた。・・・アイツから元親を奪ってやるっ・・・絶対っ・・・ヒクッ・・・俺のにすっからっ・・・///」

首に腕をギュゥッと回し、涙声で途切れ途切れに一生懸命話す政宗に、心は魂諸とも拐わせた。

あぁ、そういや政宗は未だ勘違いしたままだ。

「―・・・政宗?」

俺は政宗を正面に見据える様に少し政宗を離した。

勿論、腰から腕は離していないが。

「・・・俺が本当にそんな命令すると思うか?」
「・・・解んねぇ。・・・俺は、俺の存在に自信がねぇから・・・ッ、元親に好かれなくても、道具に使われても・・・、仕方ないって思ったから・・・」

瞬きをした瞳から大きな滴が伝い、次々と綺麗に流れる。
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