乱世
□光
1ページ/2ページ
城にまた政宗が戻り、城内は普段の落ち着きを取り戻し始めた。
「元親、元親ぁ!!!」
「ん?」
バタバタとやってきた政宗に、俺はやっていた政務を止め、政宗を見上げた。
「綺麗だろ、この花!!!」
目の前にペタンと座り、心底嬉しそうに笑う政宗から、その蒼い花を手に取った。
確かに・・・水々しい程に蒼が際立っている。
だが―・・・
俺はクスッと笑った。
「―・・・こうすると、もっと綺麗だ。」
花の茎を適度に切ると、花を政宗の髪に優しくさした。
「・・・俺から見えねぇンじゃ意味がねぇ。」
少し膨れながら、それでも気に入ったのか、外さずに頭の花をそっと手で触れて確かめている。
その何気ない様子に、言いようのない幸福感が湧き出てくる。
目を上に向けながら頭を触る政宗に、俺は目の前に鏡を向けてやった。
「どうだ、綺麗だろ?」
「―・・・全然。花瓶に飾った方が俺はいい!!!///」
ムスッと膨れッ面になった政宗だが、頬の赤さから照れている事は明確で、きっと男なのに喜べないなんて思っているのだろう。
俺は頭を優しく撫でやり、花に軽く口付けた。
「―・・・上等の花瓶じゃねぇか?」
「酷ぇ!!!俺は花瓶じゃねぇ!!!」
「あっはっは、まぁ良いじゃねぇか。俺はこっちの方が好きなんだしな?」
柔らかく笑えば、政宗は言葉に詰まって真っ赤になった。
「〜っ///・・・仕方ねぇ、今は花瓶に徹してやる///」
真っ赤になりながらムスッと見上げる姿が愛しい。
嗚呼、本当に愛しい―・・・
「―・・・政宗、こっち来な?」
膝の上をペシペシ叩いて膝の上に乗るように命ずると、政宗は首を傾けながら膝に座った。
「?・・・おう。」
てっきり椅子に腰掛けるように座るかと思いきや、俺の腰を跨ぐように向かい合いしっかり腕を回され、抱きつかれた。
子猿が母猿の腹に抱きついている、そんな感じだ。
突如舞降りた幸せに調子付き、俺はふざけながら政宗をそのまま押し倒した。
そして擽るように首筋に沢山唇を落とす。
「オラオラァ〜vV」
「くっはは!!!ちーかぁ、擽ったいー!!!」
「ン〜♪何処が擽ったいってぇ〜?」
「ははっ、やめー!!!擽ってぇってぇ!!!///」
「だーめだ、まだまだチュー攻めしてやる!!!」
「あはは、ちか擽ってぇってば!!」
ゴロゴロしながらハシャイでいると、襖越しに人の気配を感じた。
「アニキ、武田からお客人ですぜ?通しやすか?」
武田・・・と言うとどうせ幸村とお守りの佐助だろう。
「アン?―・・・今忙しいから待たせとけ。なぁ、政宗ー♪」
そう言うと、油断していた政宗をこちょこちょと擽った。
「あははっ、くくっ///やだ、やめろってば!!!///」
「ん〜?チューしてくれた良いぜ?」
スパァァーン!!!
「ハレンチでござるぁあああ!!!」
「―・・・ちょっと、政務とニャンニャンとどっちが大事なのさチカちゃん・・・」
礼儀知らずな二人は、雰囲気をぶち壊し、部屋に入ってきた。
「ンだよ・・・。空気の読めねぇ奴等だな。」
政宗を抱き起こし、改めてしっかり抱き締めると、二人を睨んだ。
「今日来ると言ったではないか元親殿!!!」
「政宗が可愛いンだ、仕方ねぇだろ?」
政宗の頭を撫でながら佐助にニヤリと笑う。
「―・・・ベタ惚れだねチカちゃん。」
呆れる佐助に俺は苦笑した。
・・・確かに、ベタ惚れも良いところだ。
今は政宗が何を言っても、何をしても、とにかく可愛くて仕方がない。
親馬鹿なんて言葉が痛く身に染みる。
―・・・だがそれも、離された事で更に政宗の存在の大きさが増した気がする。
ま、ある意味・・・佐助のお陰か。
「今日来たのは、豊臣との戦についてでござる。」
「―・・・わぁってるよ。」
今、天下の大部分は豊臣の領地になっている。
その絶大な力の前では、一国での戦は無力過ぎた。
「・・・徳川、武田、そして俺達が束になって何処までいけるか・・・だな。」
「徳川の人徳、武田の武力、元親殿の火力・・・。これで漸く対等に戦えるというもの。・・・だが、有利なわけではない。」
「―・・・。」
幸村の言う通り、対等ではあるが有利な訳ではない。
ある程度の覚悟はしなくてはならないだろう。
「―・・・元親?」
「ん?」
「・・・腕・・・」
どうやら自然と政宗を強く抱き締めていたらしい。
政宗が酷く不安な視線で俺を見上げていた。
「・・・悪ぃな政宗、そんな顔すんなよ?。」
政宗の気持ちは、何故か繋がっているように直に胸に響く。
悲しみと無力感―・・・。
そして混沌とした不安。
「戦は・・・嫌いだ。」
「政宗―・・・」
「戦をする奴も好きじゃねぇっ・・・。」
「―・・・そうか。」
泣きそうな政宗に、そう言う事しか出来ない。
「・・・でも・・・っ、ちかは好きだ・・・」
「・・・あぁ、解ってる。」
それこそ、痛い位に。
その痛みを共有してるから―・・・