乱世
□悲唄
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気持ちが悪い―・・・
、
「クソッ・・・クソッ!!!」
勢い良く部屋に飛び込み、俺は手当たり次第に物を薙ぎ倒した。
「何でっ、何で!!!」
ガタガタと崩れ、壊れていく物。
壊れてしまいそうだった日々。
戦になれば金にモノを言わせ、俺に命乞いをしてきた戦人達。
いや、実際に乞いていたのは家にであったか・・・。
俺はただ何も知らされず、戦があれば時間を置かずに治していた。
戦、という大きな不幸に誰を恨めば良いのかも解らず、戦に関わる全てを憎んだ。
だが世界は、戦ばかりだった。
世界を憎めばいいのか、全てを・・・。
だから俺が唯一、味方だと思っていたのが、世話役の小十郎だけだった。
―・・・
小十郎は誰よりも俺を大切にしてくれた。
苦しみに躰を恐ばらせていれば、優しく背中を撫で、治るまで傍にいてくれた。
悲しみに涙を流していれば、その指で涙を拭ってくれた。
小十郎の優しさだけが、俺の支えであり、人として生きている証だった。
けれど、今は違う。
仲間がいて愛する人がいて、沢山の人に支えられ、愛され―・・・。
漸くこの時を普通に生きている。
普通に―・・・
手に掴めないと思っていた『普通』の生活。
手に入ったのだ、この手に。
だから絶対に失いたくない。
仲間達も―・・・元親も。
失いたくないっ・・・
俺にはどうする事も出来ないのか。
祈って待って居るだけなんて出来ない。
俺も・・・ッ、戦う。
「―・・・皮肉なモンだ・・・」
戦を嫌っている俺が、今・・・自ら戦の波に乗ろうとしている―・・・。
人など殺したくない。
でもそれ以上に失いたくないモノが多すぎる。
誰かを犠牲にして得た幸せが、果たして本当に幸せなのか、今の俺には解らない。
だが―・・・、例え人が愚かな幸せだと自分を罵っても、俺は甘んじてそれを受けよう。
偽りの幸せでも、罪深い幸せでも、愚かな幸せでも―・・・失わずにすむなら、俺は戦う。
何人でも斬って、仲間を守る。
斬って斬って斬って斬って、幸せになる。
幸せに―・・・
「―・・・政宗。」
「っ!!!」
襖が開き、元親が中へ入ってきた。
「随分と暴れたな?」
「―・・・煩い。」
変わらぬ優しい口調が何故か悲しく、俺は背を向けた。
「政宗・・・」
耳元で囁かれた己の名前にハッとすると、振り返る間もなく俺は畳に組み敷かれ、元親の片手で頭上に両手首を押さえつけられた。
「放せよッ!!!」
「・・・まさむね」
「っ―・・・」
囁かれた己の名前に悲しみが込み上げてくる。
「―・・・何よりも、お前が大切だ・・・まさむね・・・」
嬉しいはずの言葉に、悲しくて、苦しくて、涙が伝った。
悲しみとはこんなに辛いのか・・・。
息が出来ない。
いっそこの悲しみから逃れる為なら死んでも構わないとさえ思わせる。
元親の言葉全てが今は悲しく己の心を苦しめた。
「・・・俺はきッと狂ッてる。」
「っ・・・?」
流した涙を舌先で伝い、目尻の涙を余す事なく飲むと、元親は顔を上げ、切なそうに俺を見た。
「悲しみに涙するお前に欲情が沸いてきちまう。」
「も、と・・・ちか・・・」
「・・・壊れちしまいそうなお前を、壊わしてみたいと・・・思っちまう。」
真剣な口調に言葉がでない。
「もう俺は・・・、お前の全てが愛しくて堪らない。」
そっと頬を撫でながら、元親はうっとりしてそう言った。
「怒りも、苦しみも、悲しみも・・・、どれも欲を煽られる・・・。」
耳たぶを舌先で転がし、甘噛みすると、元親は熱い音色で先を続けた。
「もっと怒ればいい、苦しめばいい、悲しめばいい・・・。それでも俺の元に帰ってくると解っているから、愛しくて・・・そうしたいと思っちまう。」
耳元で吐き出された言葉と吐息に、躰は意とは裏腹に過剰な反応を示す。
それは、毎日教えられたたまものだろう。
俺の反応を見て、元親は満足そうに微笑んだ。
「この躰はもう俺の物だ。」
「・・・もとちか」
「だから、誰にも傷つけさせない。」
その言葉に、先程の己の考えが思い出される。
「元親、俺も戦に出る!!!」
守りたい、今の生活を。
「俺も戦いたい!!!ただ待ってるだけなんて・・・、絶対に嫌だっ・・・。」
「―・・・まさむね」
「ンッ?!・・・っぁ、ん!!!」
返事を聞きたいのに、元親は俺に深く欲を含んだ口付けをしてきた。
俺の躰はいつも通り、元親を欲しがって甘い痺を全身に巡らせ、早く早くと躰が交わるのを待っている。
だが今は返事が聞きたい。
「ッ、はっ・・・も・・・ちかっ」
何とか息つぎの間に言葉を発するも、元親の耳には何も聞こえていないように行為は進む。
一言でいい、一緒に行こうと―
「―ッ?!ァアッ!!!///」
いきなり元親がまだ立ち上がってもない熱を勢い良く扱き出した。
そのあまりにも強い刺激に俺の思考はあっさり消し飛ばされる。
「ぁ、ァ・・・ァッ///」
快感に息苦しく声が途切れる。
「俺を感じろ、まさむね・・・」