乱世

□戦場
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―・・・元親が俺を置いて戦へ出て行ってから、2週間。

まるで戦とは無縁と言わんばかりの晴れやかな日々が続いている。

・・・元親も、この空のもとにいるのか・・・。


「この願いが・・・風に乗って届けばいい―・・・。」


生暖かい風に、髪がさらさらとなびく―・・・


今日も、俺は生きている。
じゃあ元親は?

「もと・・・ちか・・・。」


元親が帰って来ると信じていても、食べ物の味なんて解らない程、気が休まらないし、腹に入ったのか入らなかったのかも解らない程だった。

ただ日々が流れる。
元親の居ない日々が淡々と。

元親は怪我をしていないだろうか。
いや、戦場において怪我を負わない筈がない。
俺ならその傷を癒せるのに・・・。

だが俺が癒せる人間の数は高が知れている。

負傷した仲間全てを、治せるわけがないのだ。

どんなに荒がおうが、中途半端なこの力では叶わぬ願い。

俺は手を太陽にかざした。


人間の手に間違いない。
何処からみても、小さなひ弱な手。
こんな手に何が出来る。



『お前は代わり身だ。』
『その手で家名を守れ。』
『代わり身は代わり身としてしか生きられん。』
『何の為の代わり身かッ!』



俺は、俺の存在意義は・・・何だっただろう。


代わり身となるべく作られ、身心共に家に尽してきた。
代わり身としてしか、生き方を知らなかった俺に、他の世界を教えてくれた小十郎。
代わり身ではない俺を愛してくれた元親。

でも、俺が代わり身である事実は変わらない。

小十郎が言うように、家を捨て、世界に出ても。
元親が言うように、代わり身の力を使わなくても。

逃げてる俺は、何処に居てもちっとも変わっていない。


俺は

本当に足手まといでしかないのだ。
小十郎の、元親の―・・・。


晴れ渡る青空が、悲しみに染まっているように見える。


「―・・・悪い夢なら、覚めてくれッ―」

祈る事だけを許されて、祈った所でそれが彼の元まで果たしてどれほど届くのだろうか。

「―・・・元親。」

俺達は出会って良かったのか。
こんな苦しい想いをして、悲劇でも出会えて良かったと、お前はそう思ってくれるのか。

―・・・俺にはよく解らない。


匣詰めの日々、自由等知らなかった。
だが自由は不安だった。

何も決まっていない。
自分の考えで行動しなくてはいけなかった。
だから此処に来てから、人にどう思われるかいつもうかがっていた。
それがいつの間にか気にならなくなり、自分に自信が持てたと思っていた。


でもそれは・・・、元親が側に居てくれたからだ。

元親が側に居ないと

「っ・・・ッ―・・・」

居ないと駄目なんだ。



空が滲む―・・・
まるで海だ。


「・・・側に」


風に想いを乗せていれば、バタバタと足音が廊下に響いた。

それは戦に向かったはずの兵士だった。

「オイ、何で此方に・・・」
「ッ―!!!ま、政宗さん・・・ッ」

兵士は俺の顔を見るなり踵を返し、走り出した。

そのあからさまな態度に、何かあったという事は明白だ。

「テメェ、待ちやがれッ!!!」

俺は兵士を追いかけた。

「―ッンの野郎!!!」

俺は兵士に飛び付くと、一緒に廊下に崩れた。

「痛ッ―・・・」
「ま、政宗さん大丈夫ですか?!」
「ン・・・、大丈夫だが・・・何かあったのか?」
「それ、は・・・」

兵士はうつ向き黙った。

やはり何かあったのか・・・。


「―・・・すみません、俺の口からは何も・・・。」

きっと元親の命令だろう。

俺を心配させない為に・・・。
だが此処で引いては折角の元親との繋がりが途絶えてしまう。

「―・・・厳しいのか?」
「・・・・・・。」

ダンマリ、か。
だが表情からして良くはないのだろう。

「―・・・っ元親・・・は?」
「―ッアニキは元気ス!!!政宗さんは安心して待ってて下さい!!!」


兵士はバッと顔を上げると勢い良く、必死にそう言った。

どう考えても見え見えの嘘―・・・。

「元親・・・、元親に何かあったのか?」

声が震えない様に、心を落ち着かせた。

大丈夫、・・・大丈夫だ。

「・・・っ、・・・アニキには、政宗さんに会ったら、すぐに帰るからと、元気にしていると・・・っ・・・言って・・・ッ」
「お前―・・・。」

涙を流さない為か、きつく目を細め堪えている。

―・・・辛いのだろう、兵士達は、元親の気持ちを汲みながら、俺にまで気を回してくれている。

言いたい事もあるだろう、だが黙って従ってくれる。

それにどんなに救われている事か・・・。

「―・・・俺を、連れて行ってくれ。」
「そッ・・・それは駄目です!!!アニキが何の為に政宗さんを―」
「なぁ、―・・・俺は元親を助ける事が出来る。・・・元親だけ、だが。」
「―・・・政宗さん。」

兵士は驚いたように俺を見た。

「どんな状態でも、完璧にだ。―・・・戦に出るわけじゃねぇ。」
「・・・・・・・・・。」

兵士は必死に思考を廻らせているようだった。
その様子からするに、元親は相当悪いのだろう。

「―・・・アニキを治したら、すぐに城へ戻ってくれますか?」
「解った、すぐにもどるから―・・・だから―」
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