乱世

□闇、音も無く
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「雨―・・・か。」




見上げた空は暗雲立ち込め、渦を巻くように不快さを高ぶらせた。

嫌な、雨だ。

幾千、幾万の血の臭いと、雨の泥臭い臭いに吐き気がする。

躰を流れる血が雨と一緒になって流れて土に染み込んでいった―・・・。


・・・この世界は、屍の上に成り立っている。

鮮やかな花々が育ち、青々とした草が生え、清らかな樹木が育つこの全ての世界は屍の上に存在している。

きっとこの先、この屍の上に、何も知らない花や草や木が、良い寝床とばかりに根を走らせ、その草の上に人が歩いたり気持ち良さそうに寝転がったりするのだ。

此処にどれだけの屍があったのかも知らずに―・・・。

時とは、なんて残酷なのだろう。

でも―・・・。

どんなに時が残酷だとしても、愛しい人との時間ならばそれすら恋がれる。

「・・・はぁ・・・ッ、まさむね・・・」


お前との時間を取り戻せるなら、どんな傷だって負ってみせよう。
鬼にだってなんだってなってやる。

今はただお前に逢いたい。


逢いたいッ―・・・、政宗。

何万と人を殺めても、怨まれようと、そんなものはお前との時間の前では灰と化す。

政宗と出会って覚醒されたのは、愛とゆう底無しの闇だ―・・・。

邪魔な『モノ』を斬って斬って斬って、血まみれになってもまだ政宗に逢えない。


きっと政宗は俺恋しさに泣いている。
自分の立場に絶望している・・・。
早く俺が行って抱きしめてやらねぇと政宗が可哀想だ―・・・。

さっさと、こいつ等を殺さねぇと、俺は・・・政宗に逢えない。


「・・・此処までよ、貴方達。」
「信長様の所には行かせてやらねぇからな!!!」


ふと、声に目を上げれば、信長の妻と弓を持った餓鬼がいた。
この二人が居ると言う事は、信長は間近か・・・。

俺は口端をつり上げた。
そして左右に居る幸村と家康を交互に見た。

「敵大将は近いぜ?」
「そうでござるな、元親殿。」
「気張って行くぞッ!!!」

二人ともかなりの負傷だがそれは向こうも同じ。
目はまだまだ死んではいない事を確認すると、俺は二人に告げた。

「―・・・俺は大将を取りに行く。此処はお前等に任せる。」

信長には出来るだけ強い力で挑まないと勝てはしない。
3人で無駄に此処で体力を消費するより、先に俺が手傷を負わせていた方がいい。
そして後から合流して殺せばいい。

まぁ、最良の結果は俺一人で信長を殺す事だが。

「そんなッ!!!その躰で無茶をなさるな元親殿!!!」
「―・・・勝算はあるのか?」

勝算?
ンなモン、乱世じゃ何があるか解らないってのに。

「ある。―・・・が、早く来いよ? 寂しがり屋だからな、俺は。」

冗談めかして言うと、漸く二人が笑った。
随分と久々な感じがする。


「・・・解り申した。すぐに向かう故、暫しの別れでござる!!!」
「無茶はするなよ、元親!!!」

その二人に笑顔で答え、先を俺は急いだ。



奴を殺せば―・・・。



弩弓を飛ばしながら、ふと戦の前日を思い出した。



『っ、一緒に出掛けられるんだな、ちか・・・ッ、一緒に・・・』

戦前に、当分見れなくなるだろう政宗の笑顔が見たかった。
政宗には少し可哀想な事をしたが、戦が終わった後からでも一緒に楽しめばいい。
政宗の好きな事を何でもさせてやる。

でも甘ったれな政宗の事だ、きっと抱き締めて欲しいとかそんな事ばかり言ってくるのだろう。

政宗は人の温もりが好きになったらしく、最近は部下にまで無駄に抱きつく始末、野郎共に嫉妬するわけではないが、面白くないのは事実だ。

「―・・・ふ、俺もまだまだ餓鬼だな。」

政宗の事になるとなおの事だ。

重い躰を奮い立たせ、足を先へ先へと進める。

政宗―・・・。

嗚呼、そういえば初めて会った時もかなりの深手を負っていた。

立てずに木に寄りかかり、もう此処までかと腹をくくっていた時、政宗と出会ったんだった―・・・。
あの時は助かった事にとにかく喜んだが、今となってはそんな状況、全く喜べない。
この苦しみを政宗が背負うと思っただけで自分が酷く憎らしい。

政宗―・・・。

代わり身として生まれて来る事を義務付けられ、意味も解らず、何も知らずに長々と式神の様に扱われてきた憐れな人形。

でも、今は俺の人形だ。

好きに自由に生きさせてやりたい。

これからもずっと。


ずっとだ政宗―・・・。


その為に俺は戦う。
お前の為に幾らでも血を流そう。

だがこんな姿は見ないで欲しい。
血生臭い戦場も、その清らかな瞳に映して欲しくない。
俺のこの姿も―・・・。

血に濡れ、狂気に満ちた俺なんてお前は知らなくていい。
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