乱世

□貴方
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雲行が怪しくなって来たと思っていると、雨がポツポツと落ち、戦前まで来ると強さを増して、血の臭いを薄めていった―・・・。

遠くで断末魔の様な雷が響く。

「はぁ・・・ッ、はぁ・・・もとっ・・・ちかッ・・・」

もう少しで元親達が戦っている所に着く。

此処までは人を殺めずに進んで来れた。
否、皆・・・既に事切れていた。
その死体を避けるように駆けて来たのだ。
まるで地獄絵図の世界で、唯一の救いだったのは、うちの兵士達の遺体が殆ど見当たらなかった事だった。
不謹慎だと知りながら、俺は安堵の息を漏らした。


―・・・もう少し。


今は、ただ逢いたい。
逢いたくて、逢いたくて・・・どんな地獄だろうと元親の傍に行きたかった。
もう離れたくない。

俺は顔を滴る雨と汗を拭った。
そして再度走り出す。

・・・こうしている間にも、元親は痛みに苦しんでいるかもしれない。
急がなければ、早く行かなければッ―


雨の矢を受けながら、俺は夢中で駆けた。

―・・・雷が、近づいてくる。


「ッ!!!」


走り続けていると、先方から刀の交わる音が無数に聞こえた。
急ぎそちらに向かえば、其処には同盟を組んだ国の武将が信長の武将と戦っていた。
だが其処に元親の姿は無い。

俺は顔を知っている真田幸村の援護に入りながら元親の居場所を聞いた。

「おい、元親は何処だ!!!」
「この向こうに!!!早く行かれい!!!」

俺が抜けられるように、真田幸村は俺を守りながら道を促す。

「―・・・勝てるか。」
「無論!!!さぁ早くッ!!!」
「解った!!!・・・ッ、待ってるからな?!」

振り向いてそう叫ぶと、真田幸村は人懐っこく笑って頷いた。

―・・・きっとまた会える。

そう信じて、俺は先を急いだ。

この向こうに元親が居る。
元親がッ―・・・



















「元親ァア!!!」

拓けた場所に出ると、俺は元親の名前を叫び、その姿を探した。

「・・・ぇ・・・」

しかし俺の瞳が写し出したのは、随分と懐かしい姿だった。

「政宗様!!!」
「こ・・・じゅう・・・ろ?」

何故此処に小十郎が居るんだ?
いや、今はそれより元親だ。
俺は元親を探そうと駆け出したが、後ろから抱きすくめられ、小十郎の腕の中に収まってしまった。

「政宗様ッ、無事で良かった・・・。」
「―っ」

小十郎は本当に安堵したような声で俺をぎゅぅッと抱き締めた。

―・・・確かに、小十郎に会えて嬉しい。
元親に会うまで毎日毎日、小十郎の事を考えてきた。
でも今は元親の事しか考えられない。

俺は腕の中で向きを変えると、小十郎に食い掛った。

「元親を見なかったか?!此処で信長と戦っていたはずなんだッ!!!」
「―・・・えぇ、知っております。」

小十郎は辛そうな表情をし、視線を遠くに向けた。
その視線の先を俺も恐る恐る追う―・・・。


「も―・・・と・・・」

血に染まり倒れている信長の隣で、同じ様に元親が倒れていた。



「ぅぁあああああ!!!」
「政宗様ッ!!!落ち着いて下さい!!!」
「元親ァア!!!元親ァア!!!」

俺を必死に押さえつける小十郎の腕を払おうと、俺は無我夢中で暴れた。

間に合わなかったなんて嘘だッ―
まだ間に合う!!!

溢れていく涙に、ただでさえ見えにくい元親が、更にぼやけて見える。

「元親ァァア!!!」
「っ、政宗様!!!」

小十郎の腕を無理矢理抜け、俺は元親の元へ必死に駆けた。
―・・・目に見えるのに、途方もなく遠くに感じる。
足も必死に動かしているのに、ちっとも前に進んじゃくれない。

元親が苦しんでるのにッ
早く行かなきゃ行けないのにッ―

「もとちかぁ―ッ」

遠い

「も・・・っ・・・ちかぁ・・・」
側に居てくれよッ!!!



俺は崩れる様に元親の前に跪いた。

ベトベトとした、赤黒い血が―・・・元親の綺麗な髪を黒く染めていた。

「元親ッ!!!」

元親の頭を膝の上に置いて、肩を揺すった。
ぬるぬるとした血が手にベットリと大量につく。

血が
血が血がッ―


頭がぐるぐるする。
ぐらぐらする。

血が

元親の血がッ―

「ぁ・・・あっ・・・」

元親の生暖かい血が


『政宗、来いよ?』

元親の体温と同じ暖かさで―・・・。

『・・・あったけぇな、政宗・・・』


暖かくて・・・。

「政宗様ッ!!!」

グイッ、と躰が後ろに傾いたと思えば、また小十郎から抱き締められているようだった・・・。

「も・・・ちか・・・が・・・」
「政宗様・・・、長曽我部は―」



―・・・ピクン・・・


「もとちか?」

一瞬、瞼が動いた気がして、俺は慌てて元親の胸に耳を当てた。

「う・・・ごいてる・・・。動いてる!!!」

心臓がまだ生きているなら治せるッ―

俺は元親をそっと地面に寝せると、眼帯を外した。

―・・・封じている力を使わないと助ける事は無理だろう。

「・・・お止め下さい、政宗様。長曽我部は貴方に力を使わせるなと、私に何度も頼んで来ました。」

ピクッ、と俺は手を止めた。

確かに元親は力を使うなと何度も俺に言っていた。


ッでも―!!!
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