新宿歌舞伎町パロ

□寝物語
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平凡とはかけ離れた夜の世界で暮らし始めて数年、俺は今、複雑な心境で仕事をしている

認めたくはないが、所謂、これはいじけているだけ、なのだから



ことの発端は、一人の新人が入ったことのからだった

名前を石田三成と言う

非常に綺麗な顔立ちで、凛とした空気が好感を持てた

歳は、俺より5歳ほど下で、可愛い後輩が出来て嬉しかったのだが...

「はぁ...」

仕事、初日から、三成は問題児に浮上した

客に愛想笑いも出来なければ、口調も悪い
嘘がつけないのか、全て思ったままに言ってしまう
尚且つ、自分より下だと判断した者はタメ口、上へは、逆に服従と敬意を払っている

そして、俺は何故かその判断で言うところの『下』で、元親は『上』

ここんな生意気な奴が慕われるハズがないと思っていたが、俺の予測とは反対に、三成のハッキリした性格がウケて、客にも、スタッフにもすっかり受け入れられていた

しかも、だ

どいつもコイツも、三成と俺が似ていると言う

三成曰く、私はこんなに女々しくはない

らいしが、俺はそもそも女々しくねぇ!

カチンときて、一度キレたが、皆本気にとってもらえず、諦めた

元親すらそんな状況で、俺の心は、実はズタズタだったりする

あまり店に居たくなくて、買い出しに夜の町をトボトボと歩く

「...」

小さな星なんて、此処じゃ見えない

俺の田舎だったら、良く見えたのに...


「...政宗?」
「?」

名前を呼ばれ、反射的に振り返ると、其処に居たのは、兄と慕っていた、片倉小十郎だった

「小十郎!!」

駆け寄ると、昔のように頭を優しくなで回してきた

「政宗、随分と大人になったじゃねぇか?...此方にも中々帰って来ねぇから、ご両親も寂しがってたぞ?真田もな?」
「幸村か!...懐かしいな...本当、帰りてぇかも...」

特に今みたいな状況だと、特に

「...元気がないな?顔色も悪いし、何より...泣きそうだろ、政宗?
「...ぇ?」
「餓鬼ん頃から見てんだ、俺には隠せねぇぞ」
「ッ...こじゅ...っ...」

嗚呼、そうだっけ

幼稚園の頃から、俺は小十郎に懐いでいた
小十郎がとにかく大好きで、憧れだった
それは、今も変わらないし、そこにプラスされて、尊敬している

「ぅっ...ひくっ...」

張っていた糸が切れたかのように涙が溢れ、慌てて手で拭う

それを隠すように、小十郎が体を抱き締めてきた

「...繁華街の横道で泣く奴があるか」
「ひくっ...繁華街の横道で抱き合う方が目立つ...だろ...バカこじゅ...」
「くくっ、まぁ、どっちもどっちだな?...ホテルが近くにあるから寄っていけ」
「...でも、今仕事中なんだ」

そうだ、戻らなくてはならない

戻って、料理を作ったり、カクテルを作らなければ

「せめて、泣き顔を何とかしてからの方が、いいんじゃねぇか?」
「...確かに...そうかも」

小十郎に寄り掛かりながら、泊まっているホテルへと向かった



「...此処へは、何で?」

小十郎は繁華街で遊ぶような人間ではない
堅苦しい性格なのだ

「研師に用事があってな?その人に連れられて此処へ来たんだが、解散して帰るところだった」
「そか、小十郎は今じゃ、高級料亭の板前&オーナーだもんな?」
「お前を働かせたかったが、佐助について行かれたからな?」
「佐助は親友だし、佐助のつくる店ってのも興味あったからよ」

あの小さな小料理屋から、今じゃ、繁華街一番のホストクラブオーナーだ

「...それで、何があったんだ?」
「...聞いて、呆れられるかも...」
「呆れない。俺がお前を泣かせた事があったか?」
「...ないっけ?」
「無いな」

昔を思い出すと、泣かされた記憶はない

ないが、小言の記憶は非常に多い

...小十郎になら、話しても恥ずかしくねぇかな...

「実は、さ...」

俺は自分の嫉妬心や、女々しさ、不甲斐なさ、劣等感を全て話した

話せば話すほど、情けなくて涙が止まらず、嗚咽混じりに語った内容は、支離滅裂だったかもしれない

それでも小十郎は、黙って聞いてくれた

「...頑張ったな?」
「俺はっ...なにも...っ...」
「......暫く、俺の料亭で修行しないか?真田も働いている」
「...」

修行、か

俺が修行に行くと言ったら、元親は何と言うだろうか...

寂しいと、言ってくれるのか?

「電話、してみていいか?」
「あぁ、かまわない」

元親は仕事中だけど、俺の電話には出るはずだ

俺は迷わず電話を掛けた


「おう、政宗どうした?つーか、佐助がお前の帰りが遅ぇって怒ってたぞ」
「...元親、あのさ」
「早く帰ってこいよ、此方もスッゲー忙しくて大変だぜ」

店が忙しいのは知っている
元親のテンションの高さからも、忙しさが手に取るように解る

「修行に行こうと思うんだけど、少しの間...どうかな?」
「あん??......おー、良くわかんねぇけど、政宗がそうしてぇなら、俺は応援するぜ?」
「っ、で、でもよ?...その間、店を休む事になんだけど...それでも元親はー」
「任せろって!俺と三成でカバーすっからよ!」
「...」

三成、か

まさか、ここでも三成の名前が出るとは思わなかった

もう、俺の代わりは居るんだな

『客を目の前に電話とは、貴様、客を何だと思っている!』
『あー、良いのよ、政宗君なら仕方ないもんねー?』

電話の向こうから、客と三成の声が聞こえる

元親のヘルプに三成がはいっているのだろう

「じゃあ、詳しくはあとでな、政宗!」
「元親、最後に一つだけ聞いて欲しいんだけどよ...」
「あぁ、後で聞くって!」
「......あとで?」

そんなの、もうねぇよ...

「じゃぁ、早く来いよ!!」
「...いつか、な?」

プツン、と切れた通話は、俺の中の何かも切ってしまった

あんなに愛しても、愛されても...

すれ違いというものは生まれるらしい


「帰るよ、小十郎...」

なんだか、疲れた

「今は眠るといい。...佐助には、俺から連絡をしよう。それと、政宗...提案がある」
「...何でもいい...」

小十郎に任せれば、悪いようにはならないから

俺は小十郎に携帯を預けて眠りについた
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