新宿歌舞伎町パロ
□招待状
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道を通せば角が立つ
倫を外せば深みにはまる
邪心野心は闇に散り、残るは巷の妖しい噂−・・・
出会いまするは蛇か鬼か、はたまた仏か妖怪か
今日も新宿歌舞伎町に夜の華が咲く
−・・・
政宗は店を開店させようと暖簾を持って玄関に出た。
「よぉ、政宗」
呼ばれた声にふと下を見下ろせば、しゃがみ込んで煙草を吸っている男が目に入った。
この新宿歌舞伎町の老舗ホストクラブNo,1ホスト、長曾我部元親。
調子の良い事、この上ない男だ。
この調子で、約1ヵ月位通い詰めされている。
全く、よくもまぁ飽きないモンだ…。
「アンタ、いつから此処に?」
溜め息混じりにそう言うと、元親は立ち上がり軽く身だしなみを整えた
「そんなに長くは待ってねぇよ。・・・心配してくれたのか?」
元親は優しく微笑むと、政宗を覗き込むように見た。
「呆れただけだ。・・・ほら、さっさと入れよ」
元親を引きつれて中に入ると、佐助はまだ忙しそうに準備に追われていた。
「よぉ店主、今日も忙しそうだな」
「いらっしゃーい♪・・・ってチカちゃんじゃん、俺様忙しいから政宗に頼んで」
佐助は愛想も疎らに元親にそう言うと作業を続けた。
どうも佐助の中で元親は既に客としての役割から外されているらしい
あれだけ鴨にしろだの何だの言っていたのは何処のどいつだ
政宗はそう思ったが、政宗自身も元親を客として扱っていないので、あえて言わずにおいた。
「昨日もわざわざ夜食持たせてくれて有難うな。相変わらず周りの奴等にスゲェ羨ましがられたぜ?」
「そりゃどーも。・・・で、注文は?」
元親を見もせず政宗は包丁を淡々と動かす。
そもそも政宗にしてみれば、別にわざわざ作ったモノではない。
元親が政宗との会話に夢中で、食べ残した物を弁当に詰めたに過ぎない。
だから、礼を言われても全く嬉しくなどない。
寧ろこれは政宗の高いプライドを毎回傷つけていた。
佐助程ではないにしろ、政宗は料理には自信がある。
それを目の前で箸も付けずに自分との会話に熱中されては堪ったモンじゃない。
だからどんな形であれ、食べさせない事には腹の虫が収まらないのが実態だ。
そんなやり取りを元親と出会ってから政宗は一人で毎日おこなっている。
そのお陰もあり、政宗の料理の腕は非常に上達したのだが、残念がら本人に自覚はない。、
「政宗の得意料理がいいな、俺」
何処かうっとりとした声で言われた事にも特に気にした様子もなく、政宗はレパートリーを頭の中に浮かべた。
そして鍋の蓋を開け、ソレをよそうと、ご飯と一緒に元親に出した。
「昨日俺が仕込んでおいた肉じゃが。 誰にでも出来るけど、俺が一番好きな料理で得意料理。」
「へぇ、・・・美味そう」
元親は丁寧に頂きますをして肉じゃがを口に入れた。
「・・・何か久々に食ったけどよぉ、肉じゃがってこんなに美味かったんだなぁ・・・。」
染々言われた言葉に政宗は素直に喜び笑うと顔を綻ばせた。
「そりゃ、アンタは毎日高いモンばっか食ってっからそう思うンだろ?」
笑いながら元親を見ると、元親は不満そうな顔で俺を見た。
「高い酒は飲んでっけど、食うモンはコンビニとか飲み屋の安いツマミばっかだぜ?ちゃんとしたモンなんて食ってる暇ねぇよ。…まぁ、今は政宗が居るけどな?」
ニヤリと笑う元親を軽く無視し、政宗は受け流す。
「へぇ、そりゃ大変だな?」
だがそんな事も気にせず元親は話を進めていく。
「家に帰って、さっさと纏わりついたキツイ匂い、消してぇし」
うんざりしたように眉間に皺を寄せる元親に、政宗はそういえば、と思う。
政宗はカウンター越しに少し元親に躰を近付けると、クンッと元親の匂いをかいだ。