新宿歌舞伎町パロ
□心の声
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例えばそれが真実だとして、真実を語る事が正しいのかと言えばそうではない
嘘だと解りながら受けとめる
嘘だと解りながら嘘を吐く
嘘を求めて事実から目を背ける
嘘を求められて事実を閉ざす
嘘が嘘を呼び、嘘の上に嘘が重なる
嗚呼、この街は偽りばかり
偽りの心を見透かすのは、ネオンの光ばかりだろうか
−・・・
「―…はぁ、最近来ないねぇ金蔓」
包丁を扱いながら、ため息混じりに佐助は呟いた。
「いい貢ぎ相手でも見つけて優雅に暮らしてんだろ。」
「あ〜、売上げ向上期待してたのにぃ!!!」
「−・・・」
あのホストは、あれ以来姿を見せていない。
どれ位経っただろうか。
チラッとカレンダーに目をやれば、彼此1ヵ月程になる。
「あ〜ぁ、もっと踏んだくっときゃ良かったなぁ。結構善良的な価格だったし。」
「−・・・どん位踏んだくってたんだよ。」
「えっとねぇ・・・。『肩抱き・腰抱き\5000』『お触り、頬・膝・腕・髪\8000』『隣に座らす\20000』だったかな?」
「ah〜、確かに善良だ」
佐助の遠慮のなさに呆れて突っ込むのも馬鹿馬鹿しくなる
しかし、そんな事であのホストが金を使っていたと考えると、くだらな過ぎて嘲笑した。
・・・とんだHAPPY野郎だぜ。
「全く、政宗がもっと積極的に接客しときゃもっと稼げたのに!!!今月は元のお給料に戻します。」
「・・・佐助のケーチ。」
「何か言った?!」
「・・・ナンデモアリマセン。」
はぁ、と佐助はため息を吐くと、一旦包丁を止めた。
「―…政宗さぁ、最近元気無いよ?」
「気のせいじゃねぇの。」
そう、気のせい。
あのホストが来なくなったからって、俺の日常生活に差し支えはない
寧ろアイツは邪魔な存在だった。
いつもいつも馬鹿な台詞を吐いたり、俺の仕事の邪魔をしたり、俺のプライド傷つけたり。
アイツがいて良い事なんて一つも無かった。
どんなに嫌味を言っても、冷たくしても、馬鹿みたいにニコニコしやがって胸糞悪ぃし。
俺はアイツが大嫌いだった。
「ふぅ・・・、矢っ張り愛想尽きちゃったのかもねぇ。」
タンタンと再び佐助は包丁を働かせ始めた。
「ha、コッチは清々してるぜ。」
笑いながら佐助に答えた。
「・・・政宗には言わなかったけどさぁ、・・・アイツ、政宗に冷たくされたりされると辛そうにしてたよ?」
「・・・ha?」
「政宗が料理してる時とか、他の客の相手してる時とか、政宗の見えない所で辛そうに顔歪めてたからさ、本気なのかなって思ってたんだよね。」
「−・・・。」
「でも、まぁ見切り早い所からして、所詮ホスト止まりってやつ?」
佐助の言葉に俺の思考はピタッと止まった。
頭が真っ白で、何から考えたら良いのか、何を考えていたのか全く解らない。
ただ・・・、どうしようもなく胸が締め付けられる。
キュウキュウと心臓が悲鳴をあげて、今にも崩れ落ちそうだ。
俺はアイツが大嫌いだ。
「・・・こんなに、毎日政宗が待ってるのにね」
「ぇ?」
待ってる?
俺が―…?
「待ってるんでしょ、あのホストの事」
「待ってなんかねぇよ!!!俺はッ−・・・」
嫌い、なんだ。
嘘みたいに真っ直ぐ俺だけを見る瞳だとか
「じゃぁその時間になるとコマメに時間見るのは何で?」
「・・・混む前に何するか逆算してんだよ。」
俺だけに見せる屈託の無さそうな顔とか
「あっそ。じゃぁさ、仕事終わったってのに何で辛そうな顔するわけ?」
「それはッ」
俺を壊れ物のように扱う態度とか
「ねぇ政宗? 俺様は怒ってんじゃないの。あのホストと深い関係にもなって欲しくないしね。 ・・・でも、政宗には笑っていて欲しいわけ。」
「−・・・」
嫌い、なんだよ
「もうちょっと自分の気持ち、素直に受けとめよう、政宗」
素直な気持ちってなんだ
どうせ、戻る事なんて出来ねぇのに−・・・