保健医パロ

□問題児と俺のスタート
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俺が四国から新しく保健医として赴任してきたのは、東京のBSR学園だった。
男子より女子の方が多いのは最近ではまぁ至って普通か。
しかし権力は男子にあるというのが珍しいと思う。
此処は四国とはだいぶ雰囲気が違い、クラスごとに随分と特色ある個性豊かな生徒の集まりの様な所だった。
保健医ごときがこんな発言をするのには、図らずも訳があり−・・・

チャイムが廊下に響くと、ダダダッと廊下を駆ける足音が同時に響く。
それと同時に吐かれる俺のため息。

バンッ!!!


大きな音を立ててドアが開かれた。

「あのなぁオメェ等よぉ。毎回言って−」
「元親センセー!!!四国の話してよーvV」
「アニキィー!!!武勇伝聞かせてくださいぃ!!!」

・・・コレだ。

あっという間に保健室が一杯になる。
そして繰り広げられる男女の争い。
生徒に好かれるのは良いが、こうも人が多いと本当に具合の悪い生徒が来ても何も出来ない。
しかしそれを注意する間もなく、あーだこーだと響き渡る室内では、俺の声すら聞こえず非常に困る。
折角会いにきてくれたのだから追い返すわけにもいかず、無下にも扱えない。

こうなると休憩時間中、この勢いは止まらない。

俺はそっとため息をついた。



−・・・休憩が終わり、今までの雑音が嘘のように保健室に静寂が訪れる。
どっと疲れが出た俺は、倒れるように机に突っ伏した。
本当に何とかならないだろうか・・・。


しばらくそうしていると、カラカラとドアが引かれる音がして、仕方なく重たい頭を持ち上げた。


「・・・薬出せ」

ぶっきら棒に言われた言葉に眉を寄せると、俺は入り口に目を向けた。
見れば、随分と珍しい生徒がそこに立っている。
自慢では無いが、全校生徒と言って良いぐらい、最低でも3回は此処を訪れたであろう。 

そんな中で、この男子、伊達政宗は唯一自分を避け、係わりを持ったことのない生徒だった。
だから話した事も無ければ、視線すら合わせた事が無い。

だが、伊達の存在感は絶大で、男子生徒からは特に『筆頭』などと呼ばれるほど、憧れと尊敬の象徴になっている。

そして、女子生徒からは『王子』として、高嶺の存在らしい。

『筆頭』と『王子』では、まるで雰囲気が逆だが、伊達の行動と容姿を見れば、納得だ。

喧嘩で負け知らずだと言う『筆頭』の顔と、非常に整った顔立ちと、スラリとした体格、徹底したレディファーストをさらっと出来てしまう『王子』の顔

...何でそんな奴に俺は避けられてるんだか

まぁ、生理的に無理って奴も居るからなぁ

こちらは嫌う要素がないので、他の生徒となんら変わりなく対応する。

「薬って言われても何の薬だか解んねぇだろ?どうした、何処が痛ぇんだ?」
「解熱剤と、腹痛と頭痛の薬出せ」

伊達は症状も言わずに室内に一歩入ると、ドアを閉め、身をドアに預けた。
その様子に、体調の悪さが伺える。
顔も赤みが差しており、呼吸も乱れている。
眼も何処か虚ろで今にも閉じてしまいそうだ。
とにかくベッドに寝せた方が良さそうだと判断し、俺は伊達に近づいた。

「薬はやるが、オメェちょっとこっちで横になってろ」
「Shit、ゴチャゴチャ煩ぇな。すぐ出せねぇなら用はねぇ」

思い切り睨みつけると、伊達は保健室を出て行こうと踵を返した。

「こら、待て伊達」

急いで近付き、伊達の腕を引くと、思いの外あっさりと躰が傾き、腕の中に落ちてきた。
不思議に思い、伊達の顔を覗けば、先程の顔色が嘘のように蒼白に染まり、唇が寒いのか震えている。

抱く腕からも相当熱がある事が解り、何故こんなになるまで放っておいたのか疑問すら浮かぶ。
最初見た時は少し熱が高いだけだと思っていたが、今のこの表情ではそんな甘いモノじゃない。
「オメェ何で早く来なかった!!!つか解りにくいンだよ!!!」
「・・・るせぇ・・・、さっさと・・・薬・・・」
「餓鬼が生言ってんじゃねぇ!!!・・・大人しく此処で横になるんだな」

弱々しく抵抗する伊達を抱え上げ、ベッドに強制的に寝かし付ければ、諦めたように伊達は目蓋を閉じた。

「熱、測るからコレくわえろ」
「・・・熱なんざ・・・ねぇ」

薄っすらと目蓋を開き一瞬俺を見たが、一言苦しそうにそう言うとそっぽを向かれた。
その様子に俺は頭を掻き毟ると、怒鳴りたい衝動を何とか押さえ、極力気を使うように話し掛けた。

「その様子じゃかなり辛ぇンだろ。治してやっから、取り敢えず熱を測らせろ、な?」
「うっせぇ・・・、1時間−・・・寝たら、帰る・・・」

辛そうに言葉を吐いたかと思えば、ゴホゴホと咳き込んで伊達は躰を縮めた。
それでも拒むように身を固める伊達に、とうとう俺の堪忍袋の尾が切れた。

「オイ伊達ッ!」
「ッ―?!」

肩を掴み無理矢理こちらを向かせると、睨み付けてくる瞳を更に強く睨んだ。

「何に意地張ってんだか知らねぇが、病人は病人らしく大人しくしてろ!!!悪化したらどうすんだ!!!」
「別に意地なんざッ−・・・ゲホゲホッ!!!」
「ッ?! 大丈夫か伊達、起き上がって−」

背中を擦るため、起き上がらせるべく伸ばした手は、バシッと伊達によって叩き落とされた。

「・・・はぁ、はっ・・・触ン、な・・・」
「−・・・」

しかしそれが最後の抵抗となり、だらりと落た伊達の腕はピクリとも動かず、眠るように意識を失ったようだった。
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