保健医パロ

□捻くれ者の素直さと俺
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キシッと僅かに音が聞こえた。


「・・・?」

仕事をしていた手を一旦止め耳を澄ますが、シンと静かである。

気のせい、か?

作業を再開しようとペンを握り直したが、ハッ、と思い直し立ち上がった。

「・・・起きてない、か」

気が付いたかと思いカーテンを捲ってみたものの、伊達はなんら変わりなく眠っている。

「−・・・?」

しかし何故か感じる違和感。
考えすぎかと思い、仕事に戻ろうとも考えたが、もう一度立ち止まり、ざっと周囲を確認する。
すると、あるものが無くなっているのに気付き、俺は苛々と怒りを高めた。

「・・・ハァ・・・」

ベッド脇に置いてあったスニーカーが見当たらない。

チッ、油断も隙もねぇ餓鬼だな...

「ゥルァアア、伊達!!!」

バリッと勢い良く布団を捲ると、そこには矢張りスニーカーを履いた足があった。

「テメェ、隙を見て逃げる算段でもしてたのか、あン?!」

睨みつけると、政宗も負けずに睨んできた。

「もう治ったんだから帰るのは当たり前ぇだろ?!俺は帰る!!!」

ベッドから勢い良く立ち上がろうとする伊達に、俺は慌てて声を掛けた。

「おいッ!!!いきなり立ち上がッと−」
「ッ?!!!!」

思った通り伊達は眩暈を起こしたらしく躰を崩し、俺はそれを受けとめた。

「・・・もうちょっと寝てろ、伊達」

呆れながら政宗をベッドに導くと、突き飛ばされるように拒否されたが、力はまだまだ弱い。
本調子が出ない事に伊達は酷く苛ついているのか、舌打ちをして俯いた。

「ったくよぉ、ちったぁ気ぃ抜けよな。ンな苛ついてばっかだと疲れんだろ?たまには笑ってみろ」

優しく促すと、伊達は一瞬小馬鹿にしたように笑ったが、次の瞬間にはコロッと可愛らしい笑みで俺を見上げてきた。
元から中性的で顔が良いせいか、若干照れる。

「偉そうにゴチャゴチャ言ってんじゃねぇチンピラ保健医」

−・・・勿論、考える間もなく前言撤回だ。

「ゴチャゴチャ抜かしてんのはテメェだろうが!!!また口移しで薬飲まされたくなけりゃ黙って寝てやがれ!!!」
「なッ?!/// ッ・・・ぅあ?!!!」

俺は伊達のスニーカーを無理矢理脱がすと、投げるようにベッドに寝かせ、布団を被せた。

「テメェ、保健医が病人を投げるんじゃねぇよ!」
「さっき治ったとか抜かさなかったか、伊達?」
「センコーのクセに人のあげあしとってんじゃねぇ!」
「わかったから、あんま喚くと目眩おこすぞ?」

諭すように、ぽんぽん、と軽く頭を叩くと、予想外に大人しくなり、少し戸惑う。

...睨まれてはいるんだが、言うことは聞いてくれるのか?

ならば、このタイミングを逃すわけにはいかない。

「今日から1週間、テメェはインフルエンザで学校休むからな。その間、俺の部屋で寝泊りすんだ。有り難く思えよ?」
「ha?!何勝手にッ」
「決定だ。保健医としてちゃんと面倒みてやっから安心しろ」
「ふざんな!!!俺はもう平気だ!!1人でも−ッ?!」

やはり考えは甘かったようだ

俺は伊達の肩を強くベッドに押しつけると、軽く頭突きをした。

「1人で何が出来る。まだ熱もある、力も入らない。喉だって苦しそうだってのに、1人で何が出来るってんだ、アン?」

言い聞かせるようにじっと伊達を見つめれば、視線を逸らされてしまった。
それを無理矢理合わせるように顔を向けさせ、また視線を合わせる。

受け入れさせなければならないのだ、1人では何も出来ないという今の状況を。

「何か言い返す言葉はあるか?」
「Shit...ッ」

極力優しく言ったつもりだが、伊達はキッと睨み返し、威嚇してくる。

...どうしたもんか

こんな厄介な生徒、いや、人間に出会った試しがない

うもひねくれられると、どう接するのが正しいか解らなくなってくる

叱ってもダメ、優しくするのもダメ...

だったら

「1人で生きれねぇとは言わねぇ。ただ、もっと楽して生きてみろよ伊達。 人に甘えて、利用して楽してみたらどうだ?」

ひねくれ者には、ひねくれた考え方を、と思い、伊達の高飛車な性格も考慮し、そう切り出した。

「・・・アンタを利用しろってか?」
「あぁ、それでも構わねぇ」

政宗はハッキリ答えた俺に、心底驚いた顔をし、そして戸惑いを見せた。

「ha・・・そぅかよ、なら追い出したくなる位ぇ利用してやる」

精一杯の虚勢が、伊達を年相応に・・・いや、若干幼く見え、俺はそっと胸を撫でおろした。

そして、幼い子供にするように、優しく頭を撫でた。

「元気になったら恩はきっちり返して貰うから、覚悟しとけよ?」

笑ってそう言えば、伊達は深く布団に潜り込んで黙ってしまった。

小生意気にも、捻くれた素直さが嬉しい。


『・・・アンタを利用しろってか?』

俺には『利用していいのか?』と聞こえた気がする。

そっと伊達から離れカーテンを引た。

そしてデスク後ろの窓を開け放つと、春の少し暖まった風が頬を滑って心地よい。

ふと、その風に乗せられて美味しそうな匂いが鼻を掠めた。

「あ・・・」

そういえば、次は昼休みだ。
授業中の内に買っておかないと生徒達に捕まってそれどころではないし、伊達の面倒も見れなくなる。
俺はカーテンを勢い良く開けると、慌てて伊達に声をかけた。
それには流石の伊達も驚いたのか、布団から顔を少し覗かせ、パチクリさせて見上げている。

「昼飯、食えるか? いや食え。 何食いたい?」
「・・・ha?」
「あー、じゃぁうどんな、月見うどん。 今買ってくっから大人しく寝てろよ、いーな?! つうか逃げんじゃねぇぞ!?
「ぉ、おう・・・?」

呆気に取られている伊達に構ってやる暇はない。
もう少しで授業が終わってしまうのだ。
一人でも捕まったら最後。
嗚呼、もう少し早く気付くんだった。


−・・・そう思いながらも、軽い足取りに何故か心は楽しげだった。
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