乱世
□希望
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―・・・
・・・
「ン・・・」
まだ薄暗い室内。
布団の温もりに二度寝をと思ったが、今日の予定を思い出し飛び起きた。
「元親!!!朝だ、朝日だぜ元親!!!」
バッ、と隣を見るともう元親の姿はなく、きっと昨日言っていたようにおにぎりでも作っているのかもしれないと、俺は足取り軽く、寝着のまま部屋を出た。
「もーとーちーか!!!」
だが台所を覗いても、台所に火の気は全くない。
「―・・・ちか??」
もしかしたら機械室でカラクリをいじっているのだろうか?
なんせ元親は馬鹿がつく位、機械が好きだ。
「ったく、こんな時まで妬けちまうぜ。」
そう言った口元はそれでも緩みっぱなしで、俺は急ぎ足で機械室に向かった。
「こらー、馬鹿チカ!!!」
バンッ!!!
―・・・と勢いよく扉を開いた。
「なん―・・・で・・・」
機械室にはいつもギュウギュウにカラクリが詰まっている。
なのに今の状況はなんだ。
「一台もない・・・」
嫌な汗が背中を伝う。
「・・・う・・・そだ・・・」
気付かないように、心にかけていた鍵が・・・、外れていく。
気付いたら俺は、城中を駆けていた。
「元親ッ、元親ァァー!!!」
「政宗さんッ!!!」
後ろから部下の声が聞こえ、振り向くと、戦闘服に着替えた部下がいた。
俺はそいつに掴み掛ると、叫ぶように言った。
「元親は何処だッ!!!皆は?!―ッ、何処だよ・・・っ何処にいンだよ!!!」
「・・・解ってください、アニキの気持ち。」
辛そうに、部下は目を細めた。
「何を解れってんだ!!!」「政宗さんッ・・・」
喉が熱く張り付く。
どうやって俺は息をしていた?
苦しい、悔しい、辛い、痛い。
でも口から叫ぶ声が止まらなかった。
「元親は何処だッ!!!」
「政宗さん!!!」
「約束したんだッ、元親は何処だよ!!!」
「・・・っ、解ってくださいっ、お願いします・・・」
大の大人が涙を流して懇願している。
涙・・・
嗚呼、俺も流れている
「アニキはッ・・・ッ、・・・最後までずっと政宗さんの髪を撫でてやしたっ・・・、見てるのも辛くなるような・・・ッ、泣くんじゃねぇかって・・・っ・・・思った程でっ・・・」
「―・・・・・・ち・・・か・・・」
ぼんやりする意識―・・・
なぁ、何であんな嘘を吐いたんだ・・・、元親?
俺は・・・俺は・・・
元親が居なきゃ生きていけねぇのに・・・
躰の力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた。
「政宗さん?!」
部下に躰を支えられたが、俺は手を払い除けて、ヨロヨロと立ち上がった。
「―・・・・・・元親は・・・帰ってくる。直ぐにだ。」
「はい、絶対帰ってきます、政宗さん。」
そう、今の俺には信じて祈る事しか出来ない。
「・・・取り乱して悪ぃ。―・・・もう、大丈夫だ・・・。」
息を大きく吸った。
「大丈、夫・・・っだから・・・」
声が震える。
大丈夫だ・・・大丈夫だ、大丈夫だッ・・・
元親は直ぐに帰ってくる。
「・・・っはは、ばかちか・・・ッ、帰ったら一杯我儘言ってやるんだかな・・・っ、お前等もッ・・・覚悟しておけ!!!」
「政宗さんっ・・・、はい・・・、何でも言ってくださいっ」
「っはー!!!・・・走って疲れた、寝る!!!」
そう早口で言って、俺は部屋に向けて駆け出した。
―・・・元親は
何でわざわざ嘘を吐いたんだ。
あまりにも残酷過ぎる嘘が、俺の心を締め付け、ズタズタにしていた―・・・。
朝日が漏れだした室内に―・・・
ただ、ただ
何も映らず
ひたすらに、感情を抑える事ばかり意識していた
『―・・・まさむね』
「ちか・・・?」
居るはずのない声に、とろとろと視線を向けた。
「―ッ!!!」
目に映った物に、俺は慌てて机に駆け寄った。
そして、それを手に取った。
「・・・ッ・・・ッヒク・・・ばぁろ・・・ッばかちか・・・」
机の上に、手紙と、不器用な型のおにぎりが置いてあった。
「ちかぁ・・・ッちかぁぁ!!!」
紙の上に涙が溜まる。
白い紙が透明度を増していった。
ぐちゃぐちゃした思考の中で、ただ手紙の言葉だけが俺を優しく包んでいる。
いつもの暖かさで、いつもの優しさで―・・・
たった
一言
『傍に居る』
その暖かさが、酷く悲しく、愛しかった。
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