乱世

□貴方
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俺は小十郎に振り向いた。


「―・・・元親は俺の全てだから。」

元親の居ない世界なんて俺には要らない。

小十郎は小さく息を吐き出すと、元親をチラッと見た。

「―・・・政宗様、見た所、長曽我部は気を失っておりますが、命までは大丈夫でしょう。直に仲間も来る事を考えれば、貴方が力を使う事はありません。」

強い視線で小十郎が俺を見る。
小十郎はきっと俺の躰の事を心配してくれてるのだろう。
―・・・小十郎だけはいつも心配してくれたから。

でも―


「俺は今すぐ元親を助けたいンだ。」
「―・・・。」

自分はどうでもいい。
元親の痛みを消せるなら、どんな痛みだって喜んで引き受けよう。


小十郎はそんな俺を見て更に大きくため息を付いた。

「冷たく言う様ですが・・・信長は貴方の力を知り、長曽我部を狙ったのです。・・・貴方が居てはまたこの様な事が起きるかもしれないのですよ、政宗様。」
「・・・それは・・・」

確かに俺が居ては・・・、また元親は誰かに狙われるかもしれない。
そしたら俺は疫病神同然だ―・・・。

元親に不幸しか与えられない。
それを考えると、俺なんて居ない方がいい。

「さぁ、政宗様。・・・私と一緒に行きましょう?」

小十郎が俺に手を差し延べる。
この手を、俺は何度必死に掴んだのだろう、縋ったのだろう・・・。
たった一人ぼっちの世界で、傍に居てくれたのは小十郎だけだった。
小十郎が俺の全てだった。



「―・・・小十郎。」

一人ぼっちだったのは、もう昔なんだ。
今は仲間が沢山いる。
毎日毎日、皆で騒いではしゃいで、怒られたり、褒められたり、笑ったり・・・。

「俺は、元親の疫病神かもしれない。・・・でも、それでも追い出されるまで皆の傍に居たいンだ。」
「―・・・。」

俺はしっかりと小十郎を見つめた。


「今の生活を愛してるんだ俺。」

ずっと欲しかった『俺の居場所』・・・、それが今手元にある。
それを無くしたくはない。

絶対に。


「―・・・そう、か・・・くくっ・・・」
「こ、じゅう・・・ろ?」


小十郎は何が可笑しいのか、両目を片手で塞ぎ、くつくつと笑っている。

その姿に、何故か恐怖を感じ、俺は元親をかばう様に元親に背を向け、手を広げた。

「・・・そこまで、入れ込むとは・・・予想外だな?」
「何・・・言ってんだよ・・・?」

小十郎は手を離すと、楽しそうな表情で俺を見つめた。

「貴方は、俺のだと言ってるんですよ、政宗様?」
「ッ―?!」

小十郎は勢いよく俺の手を掴み、抵抗する俺を引きずり、元親から離すと、地面に組敷かれた。

「な、にッ―・・・。小十郎?!」
「・・・長曽我部は、・・・優しくしてくれたか?」

耳元で、聞いた事も無いような低い声が響く―・・・。

こんな声、こんな小十郎を俺は知らない。

ゾクッ、と躰が震えた。
俺は・・・小十郎に恐怖を感じているのか?
あんなに優しかった小十郎に・・・。

「可愛いな。・・・怖いのか、政宗?」
「ッ―」

両手が押さえられ、身動きが出来ない俺を満足そうに小十郎は見ると、舌と唇で耳や首筋、鎖骨等を愛撫し始めた。

「ゃ・・・ッだ!!!止めろッ・・・っ・・・こじゅ・・・ッ」

生暖かい舌が、熱を残しながらゆっくり肌を滑る。

嫌だ。
気持ち悪いッ―

元親の舌ならあんなに気持ちいいのに、何でこうも違うのだろう。

小十郎だって好きなはずなのに・・・。

「離せよ!!!嫌だッ・・・元親ァァア!!!」

元親に助けを求めたって届く筈が無いのは知っているが、叫ばずにはいられなかった。
元親だけに触られたい。

「―・・・もう、手遅れだ。」


小十郎は俺の両手を一つにすると、俺の顎を押さえた。


「俺だけに・・・手を延べていただろ?」
「小十郎・・・」

辛そうな表情に言葉が詰まる。
小十郎は・・・一体、何に怯えているのだろう。
何で苦しんでいるのだろう。

「・・・貴方を、ついに手に入れたのか、俺は。」

ゆっくりと小十郎の顔が降りてくる。

「―・・・小十郎」

俺は自分の辛さで一杯で、小十郎の辛さ等考えた事がなかった。
そんな俺が出来る事は・・・。
小十郎が俺にしてくれた様に、全てを受け入れる事しかないのかもしれない。

俺は瞼をゆっくり閉じた。

瞼の裏には、眩く輝く銀色がぽつんとある。
綺麗な銀色だ。
俺もこんな色が欲しかった―・・・。
太陽の光よりも眩しい銀色をした髪、優しい笑顔。

元親―・・・。

閉じた瞼から、暖かいモノが溢れて溢れた。

「・・・悲しいのか。」

小十郎はそっと指でソレを拭うと、頬に手を添えてきた。
いつもの暖かくて大きな手・・・。
この手が好きだった。

「・・・どうか目を開いて下さい、政宗様。」

落ち着いたいつもの声に、俺は目を開けた。

其処には、困ったような顔で笑う小十郎がいた。

「政宗様、俺は―」


ふと、小十郎の後ろに影が映り、何かがキラリと光った。
その瞬間、俺の頭は瞬時に自体を理解し叫んでいた。



「小十郎避けろッ!!!」









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