新宿歌舞伎町パロ
□侵食
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「家何処?」
覗き込むように聞いてくる元親に、ニッコリ笑って答えた。
「代々木ぃ・・・駅のすぐそこのマンションな?」
段々とホワンとしてくる頭に気合いでセーブをかけるも、特に面白くない事でも何故かツボにはまって笑ってしまう。
まぁそれが楽しいんだが、友人の前ならまだしも、この男の前でそんな姿を晒すのはプライドが許さない。
そうは思っても、この感覚が麻痺されていく様な心地よい脱力感と浮遊感には逆らいがたい。
元親の存在など気にならなくなってくる。
「・・・もしかして俺ン家の近くじゃねぇ?俺も代々木の駅近くにあるマンションだしよ」
「hu〜m? あっそ」
あぁ、何だか今度は頭がぐるぐるしてきた。
頭ではハッキリ言葉を形成出来るのに、それが口まで運ばれない。
もうそのもどかしさで言葉を発するのも面倒になってきた。
ふらふらと先に歩けば、腰を元親に支えられ、俺の歩調に合わせてサポートしてくれている。
その仕草の手慣れた事と言ったら、思わず嘲笑してしまう程だ。
どれだけの客を相手にしてきたのか厭でも解る。
躰が脳よりも先に動くのだろう、それ位スマートにさり気なく相手を気遣うように躰が出来ている。
流石はNo,1と言った所か。
だが生憎俺は男だ。
「・・・女じゃねぇんだ、これ位平気だ」
俺は力の入らない腕で元親を引き離すと、また覚束ない足で歩き始めた。
するとすぐに腕を捕まえられ、勢い良く後ろに引っ張られると、先程よりも強く腰を抱かれ、耳元で囁かれた。
「酔っ払いの平気は平気じゃねぇんだ。・・・よぉく覚えておくんだな、まさむね?」
「ah〜・・・」
言い返そうにも言葉が出てこず、あっさりと断念した。
考えるのも放棄したくなってくる。
元親の腕を跳ね除けて抵抗するのも億劫だ。
・・・酒が回ってきたのだろうか?
そういや支払いってどうなった?
電車に揺られながらそんな事を思っていると、あっという間に代々木に着いた。
そして元親に半ば支えられながら駅を出る。
「んで、此処からどう行けばいい?」
俺の具合を気遣っているのか、元親は優しく背中を擦りながら問い掛けてくる。
その顔は男のくせに綺麗で、正にホスト顔だとしみじみ思う。
矢張りコイツはホストが天職だ。
「おい、聞いてんの?」
俺はぼぅと見ていた元親の顔から視線を外し、道を指差した。
「・・・右行って左行って真っすぐのヤツ。」
アバウトに説明したが、元親は俺の指先を真剣に追って道を確認している。
「−・・・それって、『代々木上杉マンション』か?」
「ah〜、それそれ。そんな味わいもクソもねぇような名前ン所。」
管理人はやたらとシナシナした野郎だった気がするが、キモくてあまり接していない。
「マジかよ−・・・」
「・・・?」
何故か頭を抱える元親を不思議に思いつつ、ゆっくりとした足取りでマンションに向かう。
マンションに着くと、何だか安心して力が更に抜け落ち、元親にすっかり躰を任せてしまった。
俺よりしっかりとした肉付きの躰に、長い腕。
男として、羨ましい限りだ。
スッポリと元親に納まってしまう自分が情けなくてため息が出る。
出来る限りの努力はしたというのに、俺の躰は力はあるのに体格に変化はあまり表れず、牛乳だってひたすら飲んでたのに効果は全く無かった。
だから今はもう諦めて放置しているのだが、コイツの締まった躰を見ると、もう一度トレーニングしようかと思う。
・・・何にしても、今日は非常に疲れた1日だった。
ホストクラブなんかもう二度と行かねぇぞコラ。
「っと−・・・部屋番号は?」
「ん〜−・・・」
・・・アレ、度忘れ?