新宿歌舞伎町パロ
□心の声
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「気になるンなら、会ってみれば?」
ごくあっさりと簡単に佐助は言い放った。
「・・・別に気になるわけじゃ−」
言い返そうとしていると、ドアが開いた。
「いらっしゃーい♪」
「−・・・ッ・・・いらっしゃいませ」
ごく普通の疲れたサラリーマン。
ほっとしたような、胸に何か渦巻くような気分に悩まされる。
ここの所、毎日だ。
ドアが開く度に小さく心臓が跳ねる。
これじゃまるで病人だ。
その理由が解らない程、俺だって馬鹿じゃない。
自分の所為であの男を傷つけた事が気に掛かっているのだろう
あの男の気持ちを信じ切れず、思い切り踏み躙った
今思えば、本気じゃなければ今までのような態度は取れないかもしれないと、冷静に考えられる
でも、完璧過ぎたんだ…ホストとして
完璧過ぎて、信じられなかった
俺は、その事を酷く後悔している
謝って済む問題じゃないし、きっと向こうだって俺に愛想尽かすどころか、きっと酷く恨んでいるのかもしれない。
−・・・でもまだ少しの望みがあるのなら・・・
「・・・佐助、俺さ・・・」
「ん、頑張んなさい」
「・・・ありがと」
自分の気持ちは良く解らない。
でもこのままサヨナラってのも後味悪すぎる。
身勝手でも、謝ってすっきりしたい。
そして気持ちを切り替えて仕事に打ち込みたい。
俺はこの1ヵ月間減る事の無かったプラスチックの持ち帰り用弁当箱を手に取った。
そこで初めて、俺は矢張り元親を待っていたんだと漸く気付いた。
うちは持ち帰りなんてしていない。
だから滅多に使わないのに、それは当然のようにいつも手元に置いていた。
仕事の邪魔になるくせに。
こんなになってから気付くなんて、実は結構馬鹿なのかもしれない。
無意識の自分を情けなく笑った。
元親はきっと俺にはもう会いたくないはずだ。
だからせめて弁当を渡して、さっさと帰ろう。
謝罪の言葉を、料理に込めて。
俺は久しぶりに弁当に何を詰めるか考え始めた。
−・・・
仕事が片付き、店の掃除もし終わると、帰宅時間は1時を回っていた。
俺は佐助と別れ、真っすぐ元親の働く店へと足を向けた。
確か元親の店は3時までやっていたはずだから余裕で間に合う。
妙に強ばる躰と高鳴る心臓に、一歩一歩が重く感じた
漸く店の前まで来ると、タイミングよく成実が客の女に手を振って見送っている
チャンスと思ッた俺は、急いで駆け寄ると、成実を呼んだ。
「よぉ、成実!!!」
「あッ、伊達ちゃーん♪お久しぶりだねー、アニキに会いに来たんでしょ? 今呼んでく−」
「それはいいんだ」
俺は成実の言葉を遮る様に早めに切り出した。
「実はコレを元親に−」
言いかけて、聞こえてきた声に俺は反射的に成実の腕を引っ張って身をビルの隙間に隠した。
「だ、伊達ちゃん?!///」
「しっ、ちょっと黙ってろ。」
俺はコッソリと壁から店の様子を見ると案の定、元親が客を連れて楽しそうに店から出てきた。
相変わらず豪快に屈託なく笑い、非常に楽しそうだ。
多分、毎日毎日楽しくて仕方ないのだろう。
「−・・・ha」
それを見て、俺の1ヵ月間の間抜けさに笑いが込み上げて来る。
なんて自分は滑稽なんだろう。
コイツがすぐに代えを見つける事位わけないのを俺は知っていた。
だってコイツはホストだ
―…なのに、俺は何処かで期待していたんだ
コイツは俺の事を諦めたりなんかしない、と
自惚れていたのは俺の方
いつの間にか、落とされていた
俺はその光景を見ていられず、顔を引っ込めた。
「−・・・アニキと喧嘩でもしたの?」
「別に。−・・・あぁ、これアンタにやるよ。」
「えッ?!だってコレ、アニキの為に持ってきたんでしょ?!」
「もういいんだ。−・・・いらねぇなら捨ててくれ。・・・手間取らせて悪かったな。」
「ちょ・・・伊達ちゃん?!」
遠くで成実が呼んでいるのが解ったが、俺は必死で街を走り切った。
今にも涙が零れ落ちそうな瞳を抱え、必死に必死に走り、家のドアを勢い良く開け閉めると、足が役に立たなくなり、俺はドア伝に躰をズルズルと落としていった。
「ッ・・・はあ、・・・っは、ぁ・・・ゥッく・・・っ・・・」
気付くには遅すぎた気持ちに、涙が止まらない。
泣いたって何の解決にもならないのは解っている。
何の生産性もない。
でもどうしようもなく流れていく涙に、初めてアイツの事を素直に好きだったんだと認める事が出来た。
涙を流して、漸く気付けた。
「っバッカじゃねぇ・・・」
無くして初めて気付く、なんて何処でも聞く安易な台詞が、今身に染みて解ったような気がする。
・・・遠くで、いつもの俺が嘲笑って俺を見ている。