新宿歌舞伎町パロ

□夢遊
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外はまだ暗く、4時を若干過ぎていた。

外の風は思いのほか冷たく、夏からの季節の移行に気付かされる。

最近は朝晩が冷えて、日中は未だ夏のように暑い。

今日も帰り掛けに佐助に体調に気を付けろと言われた事を思い出し、思わず笑った。




マンションの玄関に着くと、サラリーマンらしきスーツを着た男が蹲って咳き込んでいた。

あまり他人と関わりたくない俺は、無視しようと決め込むも、これで何かあったら後味が悪いと思い直し、渋々声を掛けた。


「−・・・おい、兄さん大丈夫かよ?」
隣に屈んで顔色を伺おうとした俺の動きがピタリと止まった。


「っはぁ、はぁ・・・ッゥ・・・ゲホッゴホッ!!!」

その荒い息遣いと嗚咽で俺は我に返ると、慌てて背中を擦った。

「大丈夫かよ・・・アンタ・・・」

蹲っていた男は今日弁当を食ってもらう予定だった男、元親だった。

元親は珍しく泥酔しているのか、視点もおぼろげで吐くものも無いらしく、ただ嗚咽と咳を繰り返すばかりだった。
俺はどうしようか迷った挙げ句、元親の背中を擦りながら肩に腕を回させた。

「−・・・歩けるか? 部屋まで運んでやるから立てよ。」

俺だと気付いていないのか、泥酔している元親は言われたとおりにフラフラと力なく立ち上がり、俺は倒れそうな元親を支えると、エスカレーターに乗り、元親の部屋の階のボタンを押した。

半ば引きずるようにして元親を部屋まで運ぶと、元親はモゾモゾとポケットからカードキーを取り出した。

ドアが開き、一瞬入るか入らないか迷ったが、このまま玄関で寝られても困るので俺は仕方なく元親を支えてベッドに向かった。


「・・・じゃぁ、俺はこれで−ッ?!」

元親から腕を離す前に元親から倒れられ、俺も元親と一緒にベッドに倒れこんでしまった。

「くっ・・・重てぇ・・・」

上に重なるように倒れた元親を退かそうにも自分よりガタイのいい相手を退かせる訳が無い。

しかしこの態勢は、俺の気持ちをかき回すだけで、気分が滅入る。

もう触れないと決めた存在ならば、尚更―…

「ッ・・・オイ、退いてくれっ…」
「−・・・ん・・・ぁ、ン?・・・」

元親は怠そうにゆっくりと躰を起こすと、ぼんやりとした目で俺を見た。

その変わらない瞳に、心臓が止まりそうになる

久しぶりに視線が交わり、どうしようもなく顔が火照った


嗚呼−・・・好きだ、今さら言えた義理ではない


「−・・・まさ・・・む、ね・・・?」
「もとちか・・・」



「「−・・・」」



長い沈黙

黙ってしまった元親に俺も掛ける言葉が見つからず、ただ元親を見つめている事しか出来ない





どれ位そうしていたのだろう。

時間は短い筈なのに、永遠に続くような不安に駆られた。




「−・・・あぁ、夢・・・か」



「ぇ?」

一人納得したのか、元親は自嘲気味に笑うと俺の頬に触れてきた。


訳の解らない俺は、ただ元親を見つめる事しか出来ない。

−・・・夢?

酔っているのは、解る。

だが壊れそうに自嘲気味に笑う理由が全く解らない。

元親は戯言のように続けた


「−・・・もう何遍も繰り返し見てんのに、まぁた現実だって思っちまった。・・・本当駄目だな・・・、俺も」

愛しむように撫でられる頬が気持ち良いが、言葉の意味が解らず俺は首を傾けた。

・・・もう、俺に見切りをつけて他の客と楽しく過ごしてたじゃないか


「−・・・なぁ、もう夢でも何でもいいから・・・、俺の傍から居なくならないでくれよ。 そう約束してくれンなら、・・・俺は、一生夢から醒めねぇぜ?・・・なぁ、政宗・・・頼むよ」


−・・・時が、止まった
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