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□辞書(2)
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遠くでチャイムの音が鳴り響くのが耳に入り、俺はゆっくりと目を開けた。視界は一面の青。なんとなく頭を横に向ければ、出っ張った白く四角いコンクリートに包まれたドア。ぼんやりとする頭で、そういや学校だった、なんて考える。授業をサボった俺は、結局行く宛もなく、学校の屋上で惰眠を貪ることを決定したのだった。
―――どれくらい寝てたんだろ…―――
大きく伸びをして、ついでにデカい欠伸をしながら、サボったのが1時限だけであることを願った。変な形に固まってしまった関節をゴキゴキと鳴らし、そうして先ほどの夢を思う。あの試合が終わってから、ごくたまにあの雰囲気を思い返すことはあっても、夢にまで見て、しかもあんなはっきりと、そしてあんなに長くあの風景がリプレイされたのは初めてだった。
―――多分……また見ちまったからかも…―――
先ほどの夢の中の田島と、現実の、さっきの教室での田島の顔がリンクする。あの野生の獣のような目。あの試合が終わった後、あいつはよくあの目をするようになったと思う。(まあ、単に俺が意識しすぎてるだけかもしれないけど)

少し軽くなったように感じる体を立ち上がらせ、俺はドアへと足を進めた。さっきのチャイムが休み時間の開始合図で、尚且つ俺がサボった時限の終わりを告げるものであったことを前提に、教室へ戻るためだ。多分田島が、俺に辞書を返しに来ているハズだから。そうなると、俺がいなければ、あいつはきっと探しにくる。というか、保健室に行ったことになってるから、おそらく保健室に乗り込んで行くだろう。そうなるとめちゃくちゃ面倒なことになりそうだということが、簡単に予想がついた。

ーーー早く戻ろーーー

田島がもう既に保健室に突入していないことを願って、俺は教室へ向かう足を、少し速いものに変化させる。








(3)へつづく
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