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□No Title
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雪の冷たさに体が慣れてきたとともに、肩に激痛が走る。
初めての自分とその傷との対面だった。
出血は言うほどでもないが肉がえぐられている。
コートもスーツもそこの部分が削られていて、台無しだった。
こんなことなら貫通した方がまだマシだ。
思わず汚い言葉を漏らしそうになったが、あいつの「そんなのはお前のガラじゃない」というお言葉をふと思い出し、すんでのところで噛み殺した。


二つの高い壁の合間に見える狭い空は、どんよりと隠惨だった。
まだ雪を降らしたらないらしい。

…このまま雪に埋もれて氷になれたら、どんなに楽だろうか。

そう考えたら、あいつの怒った顔が浮かんできた。

―あいつは怒るのかな…―

当然怒るだろうな。
顔を真っ赤にして、子供みたいに喚いて。
その姿が自分でも思った以上に鮮やかに思い描かれ、ふふ、と吐息のような笑いが零れた。

ああ、でも

―あいつは泣くかも…―

怒って、怒って、泣いて…。
涙で顔をくしゃくしゃにして。
俺なんかのために、その綺麗な瞳を涙で濡らすんだろうな。

そう思うと、俺が泣きそうになった。
こんなゴミが散乱する、狭く、汚く、冷たい場所が自分の居場所になるなんて、本当に泣き出したくなるほどに嫌だった。



(別にあいつのところに帰りたくなったわけじゃない)











どれほどその痛みと嫌悪と共に寄り添っていたか。
時間がわからない。
携帯は置いてきたまんまにしてしまったし、時計はさっきのドンパチで壊れて役に立たない。
おまけに頭上の細い空には太陽も、それを知らせる光りも見えなかった。

結構な時間そうしていたが、未だ足は走り出せるほどに回復してはいない。
それに寒さと傷の痛みで熱っぽくもある。

…要するに、奴らに見付かれば計画がおしゃかになるのは勿論、己もアウトだ。

そんなときに、やはりお決まりのように、背後の壁を伝って足音が聞こえてくる。
足音も消せないような奴らに殺されるのかと思うと、自分が可哀想で仕方なかった。
しかしそうも言ってられない。
出きるだけ計画を成功に近付けなければならないのだ。
涙を飲んで、コンクリートの氷のような壁に耳を当てた。
はっきりと聞こえてくる複数の足音。

…5……いや、6人か…

耳が良い、というか一種の特技で、この人数はハズしたことはない。
確信を持って6人だ。


足音は近い。
見付かるのも時間の問題だろう。
果たして今の自分が6人全員退けることが可能か?
弾の残りがそれほどにあるかどうかも疑問だ。

愛銃を構える。
大好きなリボルバーだ。
しかしリボルバーであるが故に、最大装填数は6。
そして運悪く(良かったのかもしれない)弾は丁度6、残っていた。

路地裏の入り口側は闇に覆われていて何も見えない。
いつその暗闇から人影が現れるのかと、情けないほどに心臓が高鳴った。

足音が生で聞けるほどに近くなる。
もうすぐそこだ。
銃の安全装置を外し、しっかりと構えた。


カチリ


やけにその音が大きく聞こえたような気がして、心臓が跳ね上がる。
足音よりも自分の心臓の音の方が耳に直接大きく響いてくるほどに。

―…うるさい……!―
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